著者紹介

曽根剛
年齢非公表(上田監督と同年代:40代前半)
日本の映画監督、撮影監督。京都府出身。映画『カメラを止めるな!』(監督:上田慎一郎)で第42回日本アカデミー賞優秀撮影賞を受賞。
映画監督としては海外で自主製作作品を多く手掛けている。
どの作品も予算数十万円~500万円以内であり、カメラマンとして参加した映画『カメラを止めるな!』を実例とした低予算映画制作のハウツー本の本書「低予算&無名の超・映画撮影術」を玄光社より2020年4月30日に発売した。
自身で開設したそねちゃんねるでは、同業者にはたまらない動画を数多く配信している。
概要
どうやったら映画監督になれるのか?
資金はどのように調達するのか?
監督になったきっかけは?
自身も自主制作から出発した監督である著者が、低予算作品『カメラを止めるな!』で驚異的なヒットを飛ばした上田慎一郎監督をはじめとして、独自の方法と発想でその道を切り拓いてきた13人監督から、その個性的な生き方、具体的な創作・制作のノウハウを引き出す。 それぞれの思いを実現していく過程がまさに映画的!
目次
【今注目の13+1名の監督たち】
★木下半太監督『ロックンロール・ストリップ』
★田中征爾監督『メランコリック』
★加藤綾佳監督『おんなのこきらい』
★阪本武仁監督『エターナル・マリア』
★たかせしゅうほう監督『ひねくれ女のボッチ飯』
★川崎僚監督『Eggs 選ばれたい私たち』
★加藤卓哉監督『裏アカ』
★小路紘史監督『ケンとカズ』
★上田慎一郎監督『カメラを止めるな!』
★天野千尋監督『ミセス・ノイズィ』
★豪田トモ監督『うまれる』
★中泉裕矢監督『君がまた走り出すとき』
★藤井道人監督『新聞記者』
☆曽根剛: 自主制作、配信、配給の方法から経済戦略まで、初めて明かされる実際映画制作
ブログ主の勝手な解釈
私は、ここに書かれている監督たちと一緒に上映されたことも多く、一緒に作品も作ったことがあったりする。間接的な援助をしたり、されたりしたこともある人が何人かいる。
ゆえに、かなり詳しいことがイメージできた。
というか、私自身もこのリストに含まれていてもおかしくはない、そんな監督たちの書籍である。
自主映画監督の最初の関門:初期監督作品のエゴ
映画監督というのは、他人の力を利用して、自らのメリットを享受しまくるポジションであり、主要キャストはともかくとして、ほとんどの参加者にはメリットはない。特に、ここに出てくる監督たちが主戦場にしている低予算映画は、まさに監督個人のエゴの表現祭りである。
簡単にいう。映画監督というのは非職業的であればあるほど、人のためにならない。ほぼ全てが、自分の出世欲のために活動をすることになる。それゆえに、メリットも利益も出にくい。
ここで書かれた、13人の監督のインタビューはほぼ全て、このエゴと自分の付き合い方がテーマだと言っていい。本人たちは、それをダイレクトに言わないが、全てそうである。
13人全てが、ノーギャラで全員逃げ出してもおかしくない環境で最初の作品を作った
本書籍に収録された監督で、処女作で評価された人はゼロである。最低でも、3本以上の作品を作って、ようやく映画祭で賞を受賞したり、劇場でかかったりしている。
映画監督は、インディーズでさえ、それなりの存在になるのに時間がかかる。現場の崩壊やできた作品が酷すぎてお蔵入りになるというケースも、ほとんどの監督が経験している。本書にはそのことが書かれている。映画監督というのは、実にいい加減な存在な存在に見えるだろう。
しかし、それしか道がないことを本書読む人には知ってもらいたい。
本書の13人の監督で、職業監督として生き残れるのは1〜2人
90年代からインディーズの映画界に触れてきた私が見る限り、本書に登場する監督で生き残れそうなのは多くて3人。0で普通だ。この13人はそれぞれファンも評価も時間をかけて確立はしているが、それでも映画監督は全然食えず、永続性がない職業だと言える。
例えば、上田慎一郎監督は、国民的なヒットとなった『カメラを止めるな!』があるものの、本来はコメディ恋愛ものの監督で、作家性が弱い監督だった。『カメどめ』以降の作品は、ヒットしていない。一発屋の可能性が高い。なので、彼も今後どうなるかわからない。
生き残りそうな監督・消えそうな監督をピックアップ
ここでは勝手に、映画監督の視点で本書を読み、生き残りそうな監督と消えそうな監督を書いてみたいと思う。既に仕事が軌道に乗っていている藤井道人と上田慎一郎両氏は一応は外しておく。
ちなみに、お前はどうなんだ? と言われたら私は真っ先に消えそうな監督に入ると思う。
生き残りそうな監督
出産を経て、業界に生き残ったディレクターは貴重な存在
◯天野千尋監督
東京国際映画祭で話題となった『ミセス・ノイズィ』の監督・天野千尋さんは、私も面識があり、映画祭で競ったことは何度かあった。コメディのセンスでは、このリストの中で一番テクニックがあり、そもそもの演出能力もある。
そして、何よりも出産して映画監督にとどまれた女性映画監督の少なさから見て、業界内の女性プロデューサーや女優人の協力を得やすいポジションにいる。
インディーズ時代に社会派のイメージがなかった彼女が『ミセス・ノイズィ』で、復帰してメジャーシーンに参入してきたというのがすごい。本書には、彼女がなぜ『ミセス・ノイズィ』を作ったのかの経緯が書かれており、自身の独自色を作り上げる過程が書かれている。参考になる。
ただし、欠点はある。
日本の彼女のようなコメディ作品は、海外で評価されにくい。というか、コメディというジャンルがエリア別にも、国別にも特色が大きく違う。あくまでコメディは、メインではない、という作家が生き残りやすい。その辺を含めて、本書の彼女のインタビューを読んでみるといいかもしれない。
非アーティスティックでテレビ向き・人間関係強者:業界人特化型
◯たかせしゅうほう監督
たかせしゅうほう監督とも私は少しだけ面識がある。
社会人経験が長く、高齢でこの業界に入った。
彼の場合はこのリストの中で最も映画祭と縁遠く、監督しての能力・評価が低い。そんな中で、いち早く業界で好き嫌いなく多く仕事をしてメインストリームにいるという感じがする。
タイプとしては、アイドル映画を得意としている豊島圭介監督のような、高学歴で人間関係が良好であるがゆえに生き残る、テレビ・広告などのクライアント特化型監督だと言える。
作品に過度なクオリティを求めず、評価が低くても、次から次へと仕事が来るタイプの監督だ。

たかせしゅうほう監督は某理系の有名大学の博士課程を出ており、この豊島監督の系統だ。インテリの監督には、このように自身の仕事へのプライドより、クライアントの意向を優先できる大人な監督がいる。彼の場合には、俳優出身であることも影響していると本書を読んでて思った。
いずれにしても、業界にとどまり続ける図太さを持っているのがインタビューでもよくわかる。
消えそうな監督
能力が最も高いが、消えやすい典型的なインディーズスター監督
◯小路紘史監督
小路紘史監督は、ユーロスペースで記録的なブームとなった話題作『ケンとカズ』の監督であり、インディーズ映画界で一時代を作った。現在もほそぼそと映像ディレクターをしているらしい。
新作の『辰巳』は、インディペンデントでの制作で既に撮影済でポストプロダクション中。小路監督はこのリストの中で、最も能力的に高い監督で、実は上田慎一郎監督よりも、権威ある映画祭(エディンバラ国際映画祭:イギリス・世界最古の映画祭)での上映・賞歴などもある。アジア圏のインディペンデント新人でエディンバラ国際映画祭にかかるのはかなり少なく狭き門だ。
だが、私が25年近く日本のインディペンデント映画界をみてきて、彼が一番消えそうな監督だという。このようなキラ星の正統・実力派は、その映画愛の純粋さゆえ、かつてほぼ全て消えた。
日本の映画監督は、関係性・コミュニケーション能力が重視される
小路紘史監督の本誌のインタビューでも、彼の欠点がまさに露出している。
スポンサーが決まっていたにもかかわらず、彼は新作『辰巳』をインディーズに切り替えて作成したのだ。日本の映画業界のプロデューサー陣は、実はこのような行動を最も嫌う。
もちろん、本来はそうあるべきではない。もっとクオリティを重視した方がいい。
また、作品の作り込みやプライドで、低予算作品を量産できるタイプでないのも彼の弱点だろう。先に述べたように、現在の日本の映画界では、個性ではなく、豊島圭介監督やたかせしゅうほう監督のような下請け感が大事なのである。
純粋監督は、低クオリティ・多作で無ければ消える
小路紘史監督のインタビューの端々には、彼の素朴さが出ている。人間としては、好青年で仁義も守り、嘘がつけないタイプだろう。だが、こういう人材を日本の映画界は常に潰してきたと思う。それゆえに、私は小路監督をいつも応援している。
ダークホース
できないことが多いが、女性の権利の象徴になれる要素がある
◯川崎僚監督
私は川崎監督とも面識があり、彼女とは得に多くの映画コンペで競った。
彼女は不器用さが強く、その分、特定のテーマ(女性の権利)にこだわる傾向がある。
ある意味SDGsな現在の時代に一番マッチした監督であり、悪い例えかもしれないが、演出力が弱いが自意識過剰版かつヒステリー的な濱口竜介とも言える側面がある。
大物に響く作品作りができる
私の知る限りの印象だが、彼女の作品を気に入る人は大企業の経営者だったり、業界の重鎮であるような気がする。ゆえに、強力な支援者に支えられやすいという特色があるように思える。
インタビューでは、自身のこだわりのなさ、映画をほんとは大して見ていなかったり、シナリオセンターでの経験、題材の選び方などの話を開けっぴろげに話す。これは、女性監督にはとても大事なことだ。男の監督はすぐに、知識でマウンティングする。
コメディを撮らない姿勢を崩さなければ、ハイバジェットを任されるようになる可能性大
業界と妥協できない、という面では小路監督と非常に似ているが、彼女の場合は特殊な個人的な事情を映画作りに持ち込んでいるため、全く違う印象になるだろうと思う。
男性から見て、不気味な側面が目立つ作品作りをするのだ。
その不気味さがあるかぎり、彼女の映画を支援する人間は出てくると思う。現在、彼女は大手俳優プロダクションのスターダストの一員としてディレクター修行中だ。
Q:どんな人が読むべきか?
A:これから自主映画を作ろうと思っている監督が、まず第一。
次に、インディーズ映画界で、自分のポジション取りを考えている人におすすめだと言える。
映画業界だけではなく、全ての業界でもそうだが、自分の個性が他人と被るのは損でしかない。ましてや、先んじて評価を確立している開いたなら尚更だろう。
本書では、自分の個性を、自分の筆跡で残せない映画監督特有の葛藤(必ずカメラマンや俳優を媒介するという意味で)が書かれている。
また、各監督の経済的な苦しみも素直にインタビューで公開されている。この辺は、これからどうやって映画監督の道を究めていこうかと思っている人に、かなり役立つと思う。