著者紹介

橘 玲
早稲田大学文学部ロシア文学科を卒業。元・宝島社の編集者で雑誌『宝島30』2代目編集長。経済書籍での脅威のベストセラー出版率を誇る
目次
プロローグ:私たちはみんなバカである
- ファスト&スロー
- 正義と進化論
パート1 政治
- ニッポンの右翼化
- 嫌韓と反中
- 「日本を取り戻す」政策
- ニッポンはどこにいくのか?
パート2 経済
- ブラックな国
- イエという呪縛
- 自虐的な経済政策
- 経済は面白い
パート3 社会
- ニッポンの暗部
- 腐った楽園
パート4 心理
- こころの内側
- 貧しい人をより貧しくするフェアトレード
- アフリカではなぜ手足が切断されるのか?
本書をなぜレビューするのか?
通常、ブログのアフェリエイト収入を期待するブログの記事で、商品をこき下ろすと言うようなことはしない。だが、それをしないことでブログのアフェリエイトの信頼度は落ちに落ち、不要なものを売りつけるのが“ブログ”という印象を間違いなく与えている。よって私は、ダメな本はだめだと言うようにこき下ろすと決めた。他にも結構こき下ろしている書籍があるので、気になる人はブログを回遊してみて欲しい。無駄な本を買わなくて済むかも。
ちなみに私がおすすめしたい橘玲さんの書籍は以下の二つである
『女と男 なぜわかりあえないのか』
『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』
『臆病者のための株入門』
関連記事:同性も異性も対策必須。30を過ぎてからの人間関係の苦労を減らす『女と男 なぜわかりあえないのか』橘 玲
関連記事:税務署員のノルマ、マイクロ法人による無税など。最も危ない知的防衛論『新版 お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』橘 玲
関連記事:全ての詐欺師の手口を先回りして退治!しかもアホでもわかる。プロの復習用にも最適『臆病者のための株入門』橘 玲
もちろん、そのうち、橘玲の書籍「ベスト5・ワースト5」のような特集ページを作ろうと考えている。その意味でも本書をこき下ろしておこうと思う。
本書が扱おうとした「思考のファスト&スロー」と「大衆心理」
著者は冒頭で失敗した。
集団心理の思考として、ノーベル賞受賞学者のダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』を引用しながら、直感と長期思考という形で人間の思考プロセスを分けて、その直感に当たるものが、集団心理だと定義づけた。その切り口が、本書のエッセイ集のまとまりを、さらに悪いものにしている。
私が思うに、人間の思考プロセスのカーネマンの設定がそもそも間違っているのではないかと思う。正確に言えば、直感と二次思考だと思う。二次思考というのは、単純に最初に考えたことと違う結末、あるいは逆の結末になると言う思考だ。
もっというと、人間は直感でも騙されるし、二次思考でも騙される。
本書を読んで、著者が言いたかったことは、このことではないかと思った。
だが、珍しく著者は最後までその自分がやろうとしていることを気づかずに終わった。
編集部に言われるがまま、流行りのトピックについて語っただけ
本書は、週間プレーボーイの連載をまとめたもので、小保方問題、佐村河内守のゴーストライター問題、靖国問題、竹島諸島問題などの、今でいう「旬な検索キーワード」を片っぱしから、橘玲のようなハイスペックの論者が答えていくものだ。
当然、編集方針にまとまりがない。それはいい。
私も経験しているが多くのエッセイ集はこの手の手法で、連載がすすめられるからだ。あとで、加筆修正すれば、だいたいはまとめる方向に向かわせることができる、という妙な自信がどんな週刊誌の編集者にもある。
しかし、これらの2000〜2010年代のニュースは、そのニュースの引き起こした問題自体に、時代を反映するような共通要素が少なく、バラバラのものがたまたま多かった。
それに、このころのインターネット成熟期の国民的ニュースは、今まで散々騙されてきた国民側の防衛体制がネットを介してできつつあり、日本国民が逆にソーシャルメディアなどを通じて、最初から騙されない・信用しない、というスタンスでコミットしたものが多かった。
『バカ』が付く魅力的なタイトルの本=バカが評価する
『バカが多いのには理由がある』というタイトルを見て、当然私も購入したわけだが、それは当然『バカ』という単語が、タイトルについていたからだ。しかしながら、本書には「こいつはバカだ」というような人物が出てくるどころか、単なる報道の既成事実だけで、それを見た視聴者の反応などは一切ない。橘氏の本で珍しく、登場人物・対象者がいない書籍だ。
アマゾンレビューを見てみると、短文の高レビューが目立つ。しかし、橘氏の著書をよく読む読者のほとんどはがっかりしているレビューも多い。結局は、この魅力的なタイトルにすることによって、この本を手に取ったのは、彼のお得意様ではなかったのかもしれない。
名フレーズ:ブラック国家はブラック企業を管理できない
しかしながら、著者のらしさの出たトピックがないわけではない。
パート3の経済で、日本のブラック企業がなぜ、ブラックなのかを解説した『ブラックな国』というのがある。そこでは、国や公務員自体が、ブラック労働団体なので、ホワイトな就業環境がわからないので、ブラック企業がなくならない、という凄い(正しい)論理を展開している。
これはおそらく橘玲氏しか、書けない内容だ。
また、パート4の心理で『アフリカではなぜ手足が切断されるのか?』では、国家に逆らった人を罰したり、見せしめに殺す人員は、すぐに殺すのではなく、手足を切断して、フォトジェニック(魅力的な被写体)にしてから、しばらく放置する方がいい、という結末に至ったアフリカの政治家たちの話だが、ここも感動した。
そうすることで、白人の人権団体やNPO法人が海外から、支援金を持って、アフリカにきてくれるという状況を、アフリカの黒人政治家たちが作ったのだ。頭が良い。そして、この状況を俯瞰して、外から解説できるのは、黄色人種のアジア人くらいなんだろうとも思った。
このような、いつも橘氏のようなキレのあるトピックも30%くらいはある。
とはいえ、世間のレビューで言われているほど良い本ではないので、私は読んでも読まなくてもいいかなとは思う。むしろ時間がない人は、上記で私が薦めた本だけ読めば良い。