欧米のハイコンテキスト(身内主義)や宗教感がわかる。白人社会ヒエラルキーの源泉に迫る名著『ミケランジェロとメディチ家の真実 隠されたヨーロッパの血の歴史』副島隆彦

映画制作

著者紹介

副島隆彦(1953〜)

福岡市生まれ。本籍・佐賀市。早稲田大学法学部卒業。大学卒業後、銀行員(インタビューなどで英国:ロイズ系の金融機関勤務だと答えている)として英国に勤務するも3年ほどで退職し、帰国する。その後、代々木ゼミナール講師(受験英語)、常葉学園大学教授を歴任。

専門はアメリカ政治思想と政治史。選挙や米国政治人材に詳しく、オバマ当選(2008)、トランプ当選(2016)の予測を的中させたが、バイデン当選(2020)を外す。リーマンショックを予測した『連鎖する大暴落』、『逃がせ隠せ個人資産』、『世界権力者シリーズ』はベストセラーに。

目次

  • 序章 ルネサンスとは本当は何であったのか
  • 第1章 ローマ・カトリックの巨悪に対する反抗がルネサンスを生んだ
  • 第2章 押し潰されて消滅させられたプラトン・アカデミー
  • 第3章 メディチ家とは何者であったのか
  • 第4章 フィレンツェを真ん中に据えてヨーロッパ史を見る
  • 第5章 イタリアが分からないとヨーロッパが分からない

概要(ブログ主による勝手なまとめ)

本書は、東日本大震災の直後の2012年に書かれた本の大規模改訂版である。

私は、前のバージョンも読んでおり、3度ほど通読していた。この本は、私のような実はそんなに実力がない芸術家にとっては、海外進出に際し、非常に貴重な書籍であった。

本書から私が読み取って、海外活動で役立った点を列挙しておく

  • メディチ家とミケランジェロの関係から、西洋の『パトロン主義』がわかる
  • ローマンカトリックとプロテスタントの対立理解ができ、宗教観を正せる
  • 出資者(パトロン)と芸術家が、何を共有すべきなのかがわかる
  • 作品に複数の意味を込めることの重要性がわかる(欧州の芸術史はこれ)
  • 芸術家であり軍略(要塞建築の専門家)だったミケランジェロを知る
  • 作品が時間をかけて民衆に理解されていく構造がわかる(ダビテ像など)

本書は著名な欧州史の研究家であった羽仁五郎(1901〜1983)の『ミケルアンヂェロ』をフォローする形で書かれており、一応は塩野七生(1937)などの一般的なイタリア学とは違う毛色の書籍だと言える(本書の中で当初は塩野七生を酷評していたが、改訂版はやや尊敬に変わった)。

wikiぺディアより引用。羽仁五郎はリベラル知識人で『マキャベリズム(君主論)』などの多くのヨーロッパ標準知識を日本に伝えた。その門下生には学生運動で、有名になった知識人が多く、晩年や死後は、それゆえに忘却された。本書の著者、副島隆彦氏も彼の弟子の中の一人。

本書で学べることは、リアルに海外進出で重要な知識だった

本書で私がとても役になった部分はなんであるかというと、ニーチェ、モーツァルト、ダヴィンチ、ミケランジェロという、どこの美術館、映画祭にいっても出てくるモチーフの相互関係や時代感を知る重要な資料になり得たというところだろう。

日本人の作品は、チャンバラやオタク文化を扱うことで、エキゾチックを装うと、特にヨーロッパ文化を知らなくても西洋に受け入れられることが多い。だが、これは問題があるのだ。

映画や現代美術のメインコンペや展示会の中心ポジションに攻めていくには、どうしても西洋文化のメインストリームの理解が必要となり、作品をどうやってその文脈で解説できるかが鍵となる。

新海誠や鬼滅の刃が、宮崎駿の安定的な評価に至らないのは、宮崎駿だけがそれをこころえているからに他ならない。黒澤明の映画もそれに近い仕掛けがなされている。

その流れで考えると、この羽仁五郎と副島隆彦という流れは、大衆文化的な書籍文化で学べる数少ない世界基準の西洋文化だと言える。

そして、本質的には仏教徒の日本人にとって、反キリスト教運動であったルネサンスのミケランジェロとメディチ家の抗争は、かなり理解しやすいものである。

Q:どのような人が読むべきか?

A:海外でダイレクトに戦える芸術ジャンルを志している人。

ウェブからの海外公募がしやすい、映画、映像、イラスト、音楽などのデジタルメディアの学生などが時間があるときに読んでおくべき書籍だと思う。

おそらく大学や専門学校の授業ではこのレベルのものを教えてくれることはない。だが、海外に行くとわかるが、海外の観客はこういうことを前提で話しかけてくる。

特に、ニーチェ、ダヴィンチ、ミケランジェロはそうだ。

この辺の理解は、人それぞれ、みたいな甘いものはない。実は決まり切っている。

彼らに対して、なんとかしてその文脈で答える必要があり、通訳の文化的知識に頼ったとしても、作家自身の勉強心の有り無しが簡単にばれてしまう。

Q:これ一冊では足りないのではないか?

A:それはそうだ。

だが、日本の西洋文化学のメインストリームは、1960〜80年代に蓮實重彦系統などの「大枠理解」がされていない、ミニマルな話題を、難しく感動的な言語コントロールで説明して喜びを感じる「言葉遊び文化学者」(特に映画はひどい)が、ほとんどだった。

彼らの書籍には、日本人が海外に、自分の作品を売り込んだり、ビジネスマンが商品や交渉などの具体的なビジネスをする、ということを前提に本が書かれていない。

だが、副島氏は違う。彼の周りには、高度ビジネスマンや投資家、宗教家、政治家など海外で具体的に体と脳を動かさないといけない人間が多い。彼は常にそういう人に締め上げられている。

その「言葉遊び学者」「実学派(副島など)」を見分けるのは、そう簡単ではないが、ここを最初に謝るといろいろ面倒だと思うので、私は副島氏の書籍を進めたい。

Q:副島氏はなぜ、日本のイタリア学の大家と思われている塩野七生を毛嫌いするのか?

A:わからない。

改訂前は、本書でだいぶ塩野七生に対して悪口が書かれていたが、本書ではだいぶ少なくなった。単なるコンプレックスかもしれない。私は塩野七生を読んだことがないのでわからない。

最後に

例えば、2020年末から2021年初旬のトランプ・バイデンの大統領選挙などは、その話題がローマンカトリックなどに飛び火するなど、ルネサンス的な反宗教・反カトリックの運動と結びついた。

日本では長らく、ヨーロッパの芸術復興運動という定義で、間違って教えられてきた「ルネサンス」は、副島氏のいう通り、今現在も続く反宗教闘争であり、コロナ後の去年のもろもろの大騒動の中で、その理解に間違いがなかったことがわかった。ディープステートなどの陰謀論的なワードの中に、確実に西洋白人の反カトリック意識が存在している。

逆に言えば、海外で活動をするときに、お客さんは彼らになる可能性があるのだ。

何でもかんでも太古に遡って勉強しろ、とは言わない。

だが、必要な書籍を絞り込めば、世界標準で戦えるための知識は、日本語しか使えなくてもどうにか手に入る。

近年ではかなり衰えが目立つが、それでも副島氏の書籍は、その辺をカバーしようとしている。そういう点で、ぜひ、芸術系の大学・専門学校に入った人には、読んで欲しい。と個人的に思います。

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