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著者情報
逢坂冬馬
1985年生まれ。埼玉県所沢市出身。
育ちは横浜市で、明治学院大学国際学部国際学科卒[。2021年、『同志少女よ、敵を撃て』で第11回アガサ・クリスティー賞大賞を、史上初の全選考委員が5点満点をつけて受賞し、デビュー。同作で第166回直木賞候補(落選)、第19回本屋大賞受賞。
おそらく、逢坂冬馬はペンネームだと思われる。
ブログ主の勝手なまとめ
あらすじはくどくど書かないが、全体として女性の権利を盾にした戦争小説だ。
ウクライナ侵攻の幸運はあったものの、それ以前にアガサクリスティ賞を受賞しており、いずれにしても注目はされていた可能性が高い。
ただし、新人の小説なので技術力はむしろ低い。ただし、話の構成がうまいので、荒削りな感じでそれが読者に魅力として写っているところはあると思う。
モデルは伝説の女性スナイパーのパヴリチェンコだが、登場もする

細かな話をしてくとキリがないのでざっくりと概要を書く。
主人公のセラフィマは、ナチスに村を壊滅させられた戦争孤児として登場する。
そして、戦争孤児の女性だけを集めた狙撃学校に入学させられる。
その後、セラフィマは独ソ戦に出征し、各地を転戦して自分の親を殺したスナイパーを見つけ、戦いを挑もうとするが……。
という流れだ。
話が実にシンプルで、主人公の目的が終始明確だ。文化背景が特殊なぶん、細かな描写は多数あるが、話の力点が掴みやすいので読みやすさは極めて高い。
日本人はイメージできない “第二次世界大戦を『戦う女性』”
日本のアニメ全般に言えるのは、オタクやアニメ好きの子女が全体的に「戦う女性」ものの作品が好きという傾向だ。これは逆にいうと日本人が「戦う女性」というメルヘンを楽しむ傾向があるということであり、セーラームーンやプリキュアなどをみてもわかるが全国的・全世帯的だ。
ただ、これが史実に基づくものとなると一転する。
実際の女性が戦地で経験するのは、男性との肉体差であり、男性の制欲に翻弄される姿となる。そこに、日本のアニメやラノベはいっさい目を向けない、むしろ逃げる「妙な傾向」があった。

ラノベの書き方だが、現実の戦う「女性像」に寄せる手法
基本的には、本作もこの流れを汲んでいる。
例えば、会田誠の『巨大フジ隊員 VS キングギドラ』で揶揄されるような、日本の女性蔑視の流れで小説が書かれている(男性的欲望を満たすラノベスタイル)。
とはいえ、扱うのが第二次世界大戦であるがゆえに『同志少女よ、敵を撃て』では落とし所がある。つまり、前線での女性の男女肉体さの描写をきちんとせざる終えない、隠せない問題に正面から取り組んでいるのだ。その辺は新規性ある小説だとも言える。
歴史考証はかなり浅い:歴史物が好きな人には不向き
本作の周知の事実として、現代の日本人が書いたという側面がある。
おそらく著者はウェブ上の資料しか本作を書くのに使用していないだろう。しかも旧ソ連の戦争資料などはかなり少ない。『同志少女よ、敵を撃て』ではその時代考証の脆さが大きく露呈している。
それでもこのような小説を書けたのはひとえに“ラノベのスタイル”で書かれているからだろう。ラノベのスタイルで書けば、ディティールは気にならず、話し方や生活様式などを、メルヘンな状態で違和感を感じさせない程度に抑えて、素通りできる。逆に純文学的な文体では無理だっただろう。
そういう意味で、本格的な歴史物が読みたい人には不向きだと言える。
ロシア・ウクライナ戦争の資料になり得るか?
『同志少女よ、敵を撃て』は現在発生しているウクライナ侵略戦争の資料になり得るか?
結論を言うと、おそらくなるだろう。ただし、それは論理的・歴史考証的なものではない。
この小説に登場する主人公を含め、やがてはほとんど死んでいく女性兵士(民間人も)たちの心の動きは、ソ連特有の文化背景に即しているものが多くある。
例えば、後半で宿敵のナチスのスナイパーの恋人の持つヒューゴ・ボスの結婚指輪に関するエピソードがある。ここでは、女性の視点で戦時のファッションと政治性の物語が語られる。


この他にも、登場人物の女性スナイパーたちとその両親、恋人との関係が、おそらく現代のロシア・ウクライナ戦争の状況とリンクしやすい内容になっているのではないかと感じる。
また、コサックやウクライナ系の女性とロシア人との関係もわかりやすい。なぜなら、旧ソ連におけるロシア系民族の“恐怖”を前提に、本作の多くの物語が成立しているからだ。
登場人物たちは“心の奥底では西側に憧れ”つつも、生活環境や政治心情的に、西側の民主主義に怯えているキャラクターで統一されている。
つまり、ドイツやイギリス、フランスに心の底では憧れている人物が多いのだ。それゆえに、現在行われているウクライナ戦争の兵士のマインドをかなりイメージしやすく、しかも臨場感がある。
ただ、これは正直って現代のロシア人への感情であり、当時の時代性ではないと思う。
また、戦車・歩兵中心の陸軍戦線は、たまたま結果的に同じとなっている。
ウクライナ戦争ではなぜかロシアは、ほとんど最新兵器や最新戦略を使わない。泥臭いやり方で、逆にウクライナに返り討ちに会っている。その点も、本書を読む利点になるだろう。
Q:どんな人にオススメできる小説か?
A:普段ラノベを読む人。逆に向かないのは、歴史小説が好きな人だろう。
小説としての純度は、かなり低いし稚拙な面が多くある。
第一に、リアルではないので臨場感が感じられない。
おそらく、徴兵制のある国では、この小説はゴミ扱いされる可能性が高い。
だが、話としての新規性であったり、日本人のよく知らない情報がまとめられている。国際標準ではないが、日本人のオタク的な人の要望には十分応えられる内容だと思う。
現在は戦時中で、実際のウクライナとロシアのシビアな情勢はあるが、本作は至ってライトな読み物であり、手っ取り早くサクッと美少女をイメージし楽しみながら読むので良いと思う。
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