笑えて読めて、自分の仕事への怒りや不満を一気に無くす名著『ブルシット・ジョブ―クソどうでもいい仕事の理論』

オーディオブック

著者紹介

デヴィッド・グレーバー

デヴィッド・グレーバー(1961〜2020)

アメリカの人類学者、 アナキスト・アクティヴィスト。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの人類学の教授を務めた 。
どうやら2020年のコロナウイルス第二波がイタリアで流行したときに、イタリアで亡くなったようで、死因が不明だが、ネット上ではコロナ死亡説がささやかれている。

本書を読むべき人

  • ブルシットジョブ(無意味労働)についている人
  • 自分の仕事に無意味感を持つ人
  • リアルジョブ、ブルーワーカーの低賃金労働者
  • 経営者・官僚・人事担当
  • 学生・中規模以上の企業に入社志望の人
  • 人生に意味を見出せない人

本書を読んで得られる効果

  • ブルシットジョブのメカニズムがわかる
  • ブルシットジョブについていても、嫌ではなくなる
  • 仕事のストレス自体が多かれ少なかれ減る
  • 世の中の仕事にまつわる、語られてこなかった重要な問題がわかる
  • 笑える

目次

序 章 ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)現象について
第一章 ブルシット・ジョブとはなにか?
第二章 どんな種類のブルシット・ジョブがあるのか?
第三章 なぜ、ブルシット・ジョブをしている人間は、きまって自分が不幸だと述べるのか?(精神的暴力について、第一部)
第四章 ブルシット・ジョブに就いているとはどのようなことか?(精神的暴力について、第二部)
第五章 なぜブルシット・ジョブが増殖しているのか?
第六章 なぜ、ひとつの社会としてのわたしたちは、無意味な雇用の増大に反対しないのか?
第七章 ブルシット・ジョブの政治的影響とはどのようなものか、そしてこの状況に対してなにをなしうるのか?

謝 辞
原 注
訳者あとがき
参考文献

あらゆるブルシットジョバーへの膨大な”笑える”インタビュー

”クソ”という言葉がつくのに、かなりレベルの高いビジネス書である本書は、前半、マジで無意味な仕事に従事する人々のインタビューを山ほど掲載している。

しかも、それぞれに「書類穴埋め人」「グーン(間抜けな暴力団員)」など、スパイ映画やマフィア映画に登場しそうな”コードネーム”をつけて、さらに爆笑具合アップだ。文章自体も、とても学術書に近いものだといえない、三文小説ばりのエンタメ的な読みやすさ。

しかしながら、非常に注意深く、しかも本題に入っていく。
その理由を読者は後半で知ることになるのだが、ブルシットジョブというものは実に広範囲に渡ったもので、本人すら気がついていない場合もあるからである。

リアルワーク VS ブルシットジョブ

中盤で一通り、ブルシットジョブの羅列が終わると、少しずつブルシットジョブの世の中での立ち位置みたいなものや状況判断など、分析活動に移行をしていく。

クソ仕事である「ブルシットジョブ」に対し、世の中に役立つ仕事を本書では「リアルワーク」と呼ぶ。そして「リアルワーク」は激安である。清掃人、保育士、土木従事者のように「リアルワーク」が、ブルシットジョブに比べてどれくらい稼げない仕事か、やりがい搾取かを丁寧に説明してく。

リアルワークがなぜ貧困なのか?

その答えは本書では、こっそりと「宗教の原罪的なもの」として書かれている。
そもそもやりがいとは、人に役にたつべきという考え方がベースだ。もっと言うと、人の役に立たない人間は生きるべきではない、または人に迷惑をかける人間は生きていてはいけない。というのが、この世界を取り巻いている。そんなことを、ちょっとしたユーモアをもって、軽くを書いてはいるが、これは、人間が抱えている大きな本質的問題だと言える。

また、アメリカ人らしい数値かも面白い。
例えばブルシットジョブの証券トレーダーが20ドルを稼ぐごとに社会は5ドルの損失を被る、リアルワークの保育士が10ドルもらうごとに社会は3ドルの恩恵を受けるなど、具体的な社会貢献度を換算していく(かなり適当な数字だが)。その工程で”なぜリアルワーカー”が貧困なのかを読み解いていく。究極のリアルワーカーは無料で子供を産み、育て、人類に最大の貢献をもたらす”母”である。

この本の裏のテーマは”やりがい搾取”。
世の中が裕福になるたび、科学技術が発展していくたびに「やりがいのある仕事」が、どんどんボランティアに接近していくことを、人間の歴史をもとに教えてくれるのだ。

重要ワード「ケアリングジョブ(仕事のための仕事)」

ブルシットジョブが社会の問題として意識され始めたのは、著者によると1970年ごろからだと書かれている。それはなぜかというと、この頃、いわゆる助成金や資本金などの予算を獲得して成立するビジネスが盛んに世の中に溢れ始めたということらしい。
そしてそれらの大半は「仕事のための仕事」=「ケアリングジョブ」といういわゆるホワイトカラーと呼ばれる仕事に多く含まれ、売り上げや営業成績を叩き出すというよりは、見えない効果を狙うものが多いのだ。例えば、迷子をアナウンスする仕事地震学者(いまだに予測が不可能)、ほとんどの人に起きない自動車事故保険業界的にほぼ当たらないと言われる証券アナリストなどがそれに当たる。その細分化や複雑化が今日のブルシットジョブブームをもたらしているのだ。

予算・数字が合わない事が原因

これらのケアリングジョブは、効果を数値化して予測して、それに伴う賃金を見積もる。この数値が実は全く当たらないのである。その当たらないということが、大体は産業の破滅にならないように、いい意味で当たらない。これによって、ブルシットジョブの高年収化をもたらす。

AIと自動化でさらに増殖するブルシットジョブ

人間は近代化したことにより、このようにブルシットジョブを生み出せる権利を得てしまった。というのが、本書の発見であり、例えば人間がかつて理想とした週15時間労働などには、ブルシットジョブはならないという。どうしても、予算を引っ張ってくる工程でついてしまったウソや見込み違いなどにより、ブルシット従事者は忙しいふりをして、彼らの感情を逆撫でしないことを求められるのである。これが本書の大まか答えである。

それでもブルシットジョブは人間の理想に近い

著者は、自らアクティビストを名乗り、積極的に社会の間違った状況を是正する思想を大切に生きてきたという。その観点ではブルシットジョブは絶対的に反対らしい。だが、これはある意味、人類が犠牲を払ったり努力して到達したものだとも語っている。この結末は実に、興味深い。
これらの内容を私は早く知りたかったと本書を読み終えて思った。なぜなら、私も頻繁に現在の仕事のブルシット度を感じている。そんな私が、無駄な倫理観に悩まず、ブルシットジョブに集中できたかもしれないのだから。こういう人は、実際かなりいると思う。

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