脚本学習本のスタンダード。新人の扱われ方の酷さを事前に通達。コンペ対策はこれ一冊でOK『SAVE THE CATの法則』

オーディオブック

著者紹介

出版社公式サイトより引用

ブレイク・スナイダー(1957-2009)
ロサンゼルスを拠点とするアメリカの脚本家、コンサルタント、作家、教育者であり、脚本と物語の構造に関する本の3部作「セーブ・ザ・キャット」を通じて、映画業界で最も人気のあるライティングメンターの1人となる。

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米国プロデューサー制度とスターシステムを反映した脚本開発プログラム

本書は、上記の関連記事でも書いたがアメリカのプロデューサー制度(一番偉いのはプロデューサー=資金源)とスターシステム(俳優のキャスティングで融資を募る)をベースに書かれた脚本開発プログラムである。故に、脚本家を取り巻く、現実の厳しさがユーモアたっぷりに書かれている。
また、日本ではあまり教えてもらえないタグライン(一行解説)や基本コンセプト構築に関する詳しい情報も掲載されている。日本のシナリオセンターを軸とした脚本スクールが、ただ悪戯に禁止事項を決めている傾向があるのに対し、本書はソフトに詳しくそれらを解説し、どうしてもやりたいならこうしたほうがいいと禁止事項の抜け道なども、しっかり教えてくれる。

本書の脚本構成学について

本書の前半はほぼ、脚本の基本コンセプト作り(ジャンル選定や類型探し)や主人公のキャラクター設計、構成書き(プロットとか箱書きと呼ばれるもの)に割かれている。
『同じものだけど、ちがったやつをくれ』とか『家の中のモンスター』、『魔法のランプ』、など、周りくどい表現だが実にわかりやすい直球な表現が続くため、非常に面白く読める。
しかも、ここで使われている脚本学は、ジョセフ・キャンベルやプロップなどのそれまで構築してきた神話・民話に基づく王道の物語学であり、エビデンスもある実効性の高いものだ。
日本の脚本系の書籍の、全く根拠のない、個人の思想で書かれたもの(シナリオセンターの新井一系書籍※シナセン自体の教え方は良い)よりは、かなり優れている。

本書のセリフ上達術の深読み

話題を変える。あまり知られていないが、日本のシナリオコンペは、実は設定や構造、主人公のキャラクターなどよりもセリフを上手く書ける人間が選ばれやすい。それはなぜかというと、セリフがうまい人間が業界にも少なく、セリフはいくら脚本を回数書こうが、現場で揉まれようが、上達しないものだからだ。むしろ現場で揉まれると、セリフは短く、誰でも書けるものへと変わっていく。
そんな中、本書はキャラクター設計にかなり時間を書ける書籍である。そして、キャラクターが出来上がると、実はセリフのレベルが上がり、上手く書きやすくなる。
そういう面で、本書は英語版が原著だが、効能は非常にグローバルなものだと言える。そして、同時に日本の脚本コンペにも自動的に役に立つ。

書き直しし易く、構成変更も容易な優れた脚本術

また、本書の特出すべき利点は、このメソッドで書かれた脚本は、本人をはじめとして、第三者や監督、プロデューサーが書き直しやすいという汎用性の高い脚本になるということ。逆にいえば、個性やアクの強さがない脚本になる。しかし、業界で求められているのは、汎用性の高い脚本であり、実際のところ、そういう脚本のほうがレベルが高くなりがちである。

デメリット

デメリットは、初心者が模索しながら構築すべき本来の個性が犠牲になる場合が多い、ということだ。だが、大半の素人は才能がないというのも事実。これは残念だが、しょうがない。
よって、私のおすすめとしては、一度自分のスタイルを探しながらシナリオを書いてみることをお勧めする。その後で、どうしても上手く行かなばい場合や、下手くそで恥ずかしい脚本が出来上がってやる気を失いそうになったとき、本書を読んでみたらいいのではないかと思う。

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