自主映画・長編映画のスタッフ&お金問題。映画監督たちは一体どうすればいいのか?(2)長編映画の最初の資金繰り・その後の信用

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無名新人の長編映画企画をスタートできる条件とは

関連記事:自主映画・長編映画のスタッフ&お金問題。映画監督たちは一体どうすればいいのか?(1)希少スタッフへの考え方と、作品の精度の高め方

上記の前編記事では、地道なスタッフィングやギャラ、映画制作の現場的な話題を話してきましたが、ここでは、きちんとした予算規模の自主映画でデビューする重要さと映画制作費のトータルバジェットの話をしていきたいと思います。

自力で開拓できる人の特徴と、それなりの予算でデビューする必要性

ちなみになぜスタッフの話(前回記事(1))を先にしたのかと言うと、人によってはスタッフの諸問題への対処ができさえすれば、長編映画を作れなくもない、と言うのがあるからです。

例えば、かなり野心度の高いゲリラ的な撮影で著名な、1990年代から2000年代前半にかけての大阪芸術大学のような感じです。もしくは、1980年代に無一文に近い状態で多くのスキャンダラスな自主映画ヒット作を乱発した園子温監督のような人は、スタッフからもカリスマ的な信用度があり、低予算での連作に向いています。

しかし、おそらく今後はそのようなことはやりにくくなるはずです。

そこには、その監督のその後の金銭的・モラル的な信用問題が関連してきます。

むしろ、そのスタイル(園子温&90-00年代大阪芸大スタイル)でやることでデビュー後の自分の首を絞めることになりかねない。と言うことで、ここでは、ある一定のクオリティを担保できるような正統派の自主映画企画に関して語っておきたいと思います。

無名の新人がオリジナル長編映画を作るときに必要なこと:資金・信用

撮影が途中のまま、完成しない作品が山のようにある
東京国際映画祭で上映された『知らない町』など、ひとつの映画制作に5年から10年の制作期間をかけてしまう作品があるが、そのほとんどが資金ショートやスタッフの離散、最初に撮影した素材が使えない、とどのプランミス。『知らない町』のように見事に克服することもあるが、その90%は破綻してお蔵入りとなります。

私のよく知る1990年代から2000年代にかけて、自主映画とは、そのほとんどが完成しない、と言っていいくらいのものでした。現在は、撮影技術やスタッフ・俳優部の映画づくりへの理解であったり、監督が単独で行える作業がデジタル化によって増えたため、だいぶ減っている印象です。

しかしながら、現在でも完成しない映画はたくさんあります。

なんでそんなことがわかるかと言うと、私は芸大出身でもあり、また映画系の専門学校の実情も知っており、課題提出日になっても未提出の作品が、現在も少なくないと言うのを知っているからです。

お蔵入りになると、労力も資金もパーです。

それ以前に、出演したキャスト(特に主演)にはキャリア的な損失は大きく、スタッフサイドも各部門長である撮影監督やサウンドデザインなどには、経歴にならないというマイナス面もあるでしょう。

それ以前に、完成しないことを理由に各コストを決済しない監督も多いので、実際の監督の行動はともあれ、信用問題に傷がつきます。噂も立ちやすく、今後の展開に影を落とすのもほぼ確定です。

この面を前提に、長編映画のデビュー作について、慎重に考えるべきだと私は思います。

どのようなデビュールートや手法があるのか?

三つの主要なデビュールートを解説

結論を先にいうと、全くの新人がそれなりのクオリティで、国際映画祭や劇場上映に耐えうる長編映画を作るには、かなりの敷居があると言えます。予算的な敷居です。

しかし、そのような敷居も、2006年に国立最高学府の東京藝術大学の大学院で映画専攻ができたことと、国産の主要国際映画祭に食い込むSKIPシティ国際Dシネマ映画祭などの台頭や、2010年代以降の国際マーケットにおける東京国際映画祭の復活などで、支援体制が徐々に整ってきています。

要するに、各種団体の助成制度が昔より増えていると言うことです。

一般的な製品化が成立する作品(予算が400〜800万円程度)の見込みで言うと以下の感じです。

  • 大学・大学院の卒業制作(自己資金:学費400〜600万円+助成受けやすい)
  • 企画コンペ・脚本コンペの入選作(賞金・援助金+α※自助努力によるものが大きい)
  • 監督自身が現場費用(200〜400万円程度)を用意した場合

これらの条件が、私が今感じる正当な自主映画のルートかなと思います。

大学・大学院の卒業制作

想定されるデメリット・リスク

  • 希望者全員が長編作品を作れるわけではない
  • スタッフに外部の有能者を使えない
  • 脚本やプランが教授や同窓生などの民主的なシステムで管理されがち
  • 受験・学費リスク(200〜800万円+生活費+映画コスト)

想定されるメリット

  • 全くの無知識・未経験者が映画製作をできる
  • 有名俳優がローコストで出演する場合が多い(教育機関の信用)
  • 製作遅延が減らせる(制度締切)
  • 劇場公開とセットになっているケースが多い(卒業製作)
  • 映画祭に通りやすい(教育機関と映画祭の人事のカブリ)
  • 映像業界への就職はしやすくなる

現在、最も倍率が低く、支援を受けやすい大学・専門学校ルート

長編映画を作成しようとした時に、現在の日本で一番手堅く再現性のある方法は、映画専攻の専門学校・大学・大学院への入学だと言えます。

個人的に、全くの無知識・無経験で長編映画を作れるほぼ唯一のルートだとも思っています。もっと言うと、大都市以外の出身者にとって、数少ない映画監督ルートとなるのではないでしょうか。

上記に挙げたデメリットも完全自己資本よりは断然、ローリスクです。

苦労を楽しく、短期間に圧縮できる

映画はスタッフィングや日程、俳優などの要素など多くの経験値が必要となります。本来、経験が無ければ、予定すらもともに立てられず、全てが崩壊します。

よく、優秀な助監督がいれば現場は回る、ことが実しやかに言われますが、それは間違いだと思います。周りの人間が、常日頃から映画や映像作品を作っている、という前置きが必要なのです。

そんな中で、この大学ルートは私の初心者におすすめのルートとなります。なぜなら、これらのリスクをなんらかの回避するシステムを、学校側が用意してくれているからです。

現に私も、自主映画をわずかにかじった状態で、どうにか東京藝術大学大学院に入学し、この長編映画を作るとルートに乗ることができました。

それなりの礼儀作法と、コミュニケーション能力があれば、才能のある無しかかわらず、世間で受けるようなひどい思いもしないのがこのルートの特徴だと言えるでしょう。

存在するリスクと最大のメリット:受験と劇場公開(卒業制作発表会)

大学の学部の映画系を受ける場合は、センター試験なり文系三科目で受けられるものが多いです。ここが自身の生い立ちに関係なく、この選択肢を取ることができる理由だと言えます。

また、卒業制作に、本来かなり手間とコストがかかる劇場公開が勝手に付属してくることがあります。大学というのが、学んだ成果を公開しなかればいけないという使命を持っているせいでしょう。そして、この劇場公開の経歴は、思いのほか映像業界では重宝されるのです。

苦労が想定されるポイント

映像系学科での課題実習となると、他の学科に比べて無類の手間と時間がかかることが想定されます。実写作品は、スタッフ、キャストなどどんな最小限のものでも5〜8人程度の人員が必要です。

また、ロケ地リスクもあり、実績のない最初のうちは相当苦労するでしょう。

学内での争い・独特のプレッシャー

レベルの高い大学であればあるほど、卒業制作を作れる監督は厳しい選抜制をとっています。

例を出すと失礼かもしれませんが、大阪芸術大学やENBUゼミナールなどは、私学最低水準の偏差値で学費も高く、競争心理よりも雑草根性が際立ちます。

このような環境では、卒業制作用の資金は用意されず、選抜もほぼないため、勝手に仲間を集めて映画制作をすることができれば、卒業制作に長編を作ることができます。むしろこの“気合の入った制度”が、のちにインディペンデントで映画を作るのに役立つとも言えなくもないのです。

ところが、上位の私学や東京藝術大学などは、監督できる人間は限定されているか、教授に気に入られたり、熾烈な競争を勝ち上がった一部の人間だけしか監督ができないケースが多いです。

このような学校の場合、選に漏れると、かなり多くの学生が中退をえらびます。

以上が、大学・専門学校のケースです。

企画コンペ・脚本コンペの入選作から長編映画作成

倍率の壁は高い

次にコンペの話をしたいと思います。

現在、映画系の賞金・資金提供コンペというのは減っている。主なものは以下のとおり。

未経験者へのおすすめは シナリオ系

私のおすすめはなんといってもシナリオ系コンペである。なぜおすすめかというと、倍率が低く、長編から中編のシナリオを書く手間がそれに加わり、標準以上のものが提出できれば、さらにグッと倍率が下がるからだ。資金はないが、支援も手厚いのが特徴です。

  • 伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞:倍率150〜300倍:制作援助金100〜200万円程度
  • 函館港イルミナシオン映画祭:倍率90〜120倍:賞金100万円程度
  • TSUTAYA CREATOERS’ PROGRAM:倍率400〜800倍:制作援助5000万円程度

コンペをクリアする、もしくは1次や2次を通過した企画を作品化するメリット

グランプリを取ることに越したことはないのですが、それにこだわっていると時間ばかりが過ぎてしまうので、現実的な話をしたいと思います。それは、これらのコンペは作品の監督の頭の中から出して、具現化して他人に見てもらう、という作業を経ている、ということです。

万が一、グランプリを取ればそれに他人の評価の最上級の信用度がつきます。それ以外でも、他人が見た評価がある程度形になれば、例えば1次や2次をパスする、という結果を伴えば、周囲のスタッフやキャストの信用を得られる場合が大きくなります。

ただし、この企画は〇〇コンペの1次を通過して、2次で落ちたものです、などと正直にいう必要はない。ただ、そのまま他人にある程度見せることに問題がない、というだけでも大きいわけです。監督の中で、安堵して人に見せることができる、それだけでいろいろ問題は解決します。

未経験者は、未経験で得られる「信用」について真剣に考えるべき

ここでいったんまとめたいと思います。

このページで総じて私がいっているのは、映画監督は、実務をせずにその多くが他人がしたものを集める作業であるということ。それゆえに、他人からの信用を得るのは大事です。

その信用は、企画の進め方や自分のデビューをどうするのか、に出やすい。そういうことです。映画制作を目指して大学に入ることも、これに該当します。

最後に、おすすめの書籍を2点紹介して終わります。

映画はどこにある インディペンデント映画の新しい波

この本では、過去の映画監督がどのようにデビューにこぎつけたのかをベースに、実際業界で活躍している映画監督たちがインタビューに答えています。

ただ、時代が違うので今も使えるようなデビュー手法はありません。それでも、ここに書かれている新人のメンタリティは、非常に有効だと言えます。

仕事や人生や未来について考えるときにアーティストが語ること

こちらは、職業アーティストとしての考え方についてそれぞれの新人から中堅のアーティストたちのインタビューをまとめたものです。節々に、それぞれにデビュー感が残っており、ためになります。

周りの人間から「長期ビジョンを描け」と、ほぼいじめに近いことを、最初のうちは言われるものです。私もその中の一人かもしれませんが。

ですが、その辺は実は結構適当でいいんだなとも思える本だと言えます。しかしそれでも、無駄な時間を過ごさないために、各自本当によく考えてスタートを切っているのはわかるでしょう。

以上です。

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