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目次
- 第1章 電撃退陣の裏側
- 第2章 菅新政権誕生
- 第3章 歴代最長政権の七年八ヵ月
- 第4章 老獪な政治手腕をどう作りあげたか
- 第5章 第一次政権の失敗から学んだこと
- 第6章 安倍晋三を強くした平成政治の修羅場
著者について
石橋文登(イシバシフミト 1966〜)
政治ジャーナリスト。福岡県生まれ。90年、京都大学農学部を卒業後、産経新聞社に入社。奈良支局、京都総局、大阪社会部を経て2002年に政治部に異動。拉致問題、郵政解散をはじめ小泉政権以降の政局の最前線で取材。政治部次長を経て、編集局次長兼政治部長などを歴任。2019年4月、同社を退社。6月より千葉工業大学審議役。2020年7月より千葉工業大学特別教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
取材なしで、伝聞と妄想で書かれたと思われる本
久しぶりに読んだクソ本だった。がだ、後で書くが学ぶところがないわけではない。
しかしそれでも読むのに意欲が湧きにくかった。
これがアマゾンオーディオブックでなければ、そして、長距離散歩中だったので、スマホをポケットから出して操作するのが面倒なければ、一瞬で読むのをやめていただろう。
このような本が書かれた背景を考えてみる
本書は、史上最長の政権運営をやった安倍晋三が、退陣をしたシーンから始まる。
書かれた本の無意味さから、なぜ書かれたのかを考えたくなる。おそらく、安倍晋三の語り長の側面が強いので、安倍晋三がこの本を書くことを望んだのだろう。
基本は、菅義偉(当時首相)と安倍晋三の詳しい情報
本書は、安倍晋三が退陣した後の菅義偉内閣をフォローするという別の役割もあった本である。そのフォローによって、安倍晋三の院政を印象付ける、そのような本である。
そこで語られるのは、菅義偉という叩き上げの政治家を扱いながら、二世政治家としての安倍晋三を正当化し、その院政や三度目の総理復帰を匂わせる保険のような本だ。
ライター主体で描かれたのではなく、どう考えても安倍晋三の近臣が支持した本だろう。
岸田文雄の不思議さがそれとなく描かれている貴重さ
この手の書籍は、過去に取り上げたことがある豊田章男の自伝も含め、同じ文体のクソ本になる。まるで月光仮面や水戸黄門のような勧善懲悪な乗りは、往々にして同じ結末になる。
だが、ちょっと本書は違う感じで読めるところがあった。
それは、岸田文雄に関する描写と麻生太郎に関する描写である。
岸田文雄が、政敵でかつレベルの低い、バカ政治家として描かれる、が……
その中でとりわけ私が気になったのは、岸田文雄に関する描写である。
本書では、岸田文雄を「頭が悪く、優柔不断な安倍晋三とは逆のタイプ」というバイアスで、ずっと書かれている。グズでバカという書き方だ。
だが、彼を取り巻く環境に関して、結構面白い描写が続く。だが、本人は動かないのに、森喜朗、麻生太郎などの重鎮が、異常に岸田文雄を気にしているという描写が続く。
そこには自民党ならではの理由があるらしい。読み進めると次のようなことが書いてある。
自民党という政党は憲法を改正することが目的で結成されたという党の基本理念が存在する。そして、その党の「憲法改正」を実現するのは、安倍晋三や菅義偉、麻生太郎のような剛腕の政治家ではなく、野党や国民から反対を受けにくい人物になるだろうと言われている。
そして、それに該当するのが、岸田文雄であろう、ということがほのかに描かれている。
もし「憲法改正」を実現するのであれば、それは鳩派の宏池会の復活が必要で、なおかつトップに立つのは岸田文雄のような曖昧で自分のスタンスを持たない政治家が必要なのだという。
この点は注目すべき記述かもしれない。
石破茂と民主党を、無根拠に敵と見なし、強引すぎて滑稽な文章が続く
何度も言うが、本書の最大の欠点であるところに、政敵をまるでマーベルコミックの物語風として書く点が挙げられる。恥ずかしくて、なかなか読む気が起きない。
おそらく、酷く陳腐すぎるために、本書を手に取った多くの安倍ファンでさえ、読むのをやめてしまうのでないだろうか。
その中でも、特に石破茂と民主党に関するものがとりわけ酷い。急に文章のレベルが落ちて、小学生の作文のような描写が続く。根拠を示さずに、無茶な文を書けば誰でもバカさがわかる。
石破茂を通して、安倍晋三の欠点が固着されてしまった印象
参考記事:石破茂さん「安倍さんと考えを異にすることも多かったが…信念の人」安倍元総理の訃報受け
上記の記事で、安倍晋三氏が暗殺されてから、石破氏が手打ちをして不仲の状況を緩和した。
現在、そのことからその後は当時の二人の険悪な記憶は音沙汰なくなっている。だが、本書には生前の安倍晋三サイドの石破氏への一方的な悪い印象がきっちり書かれていて、その辺は逆に風化せずに、こうして残してしまったところが面白い。安倍晋三の小ささが描かれている。
私は安倍晋三が嫌いではないが、彼のこういういかにも二世議員的な肝っ玉の小ささ(第三者にだらしのないことを代弁させるおぼっちゃま的なところ)は、たぶん後で損すると思う。
安倍を批判したい人は、この本を引用してもいいかもしれない。
Q:どういう人が読むべきか?
A:安倍晋三のファンが読んでも、安倍晋三をイヤになる書籍だと思う。
だが、役に立つところはある。それは自民党内での人事の決まり方が描かれているところと、自民党の意思決定プロセスの流れの描写だろう。
ただ、書き方が稚拙なので、それが本当かどうかは疑わしい。それでも本書が出版されても自民党内から特に否定もないところを見ると、それなりに党内人事の決まり方は正しいのかもしれない。
例えば、安倍晋三が、森喜朗のところに行って、麻生太郎のところに行って、渡邉恒雄と巨人戦を一緒に見て、その後にまた朝に森喜朗のところに行って、その後……、みたいな形で、あっちこっちに動き回って認証を得る姿が本書には、どう考えても普通そこまで覚えていないだろう、というくらいに細かく書かれている。
ただ、実際にその作業したかどうかは疑わしい。だが、その描写には妙な納得感があり、日本政治おける外か見て全く意味不明な「ヘンテコ根回し」の空気感的なものが、正直に書かれている感じはする。
その根回しで、大勢が一つの意思として「なんとなく悪くないな」という集団に変わっていくのが妙にリアリティがある。会話が酷いので、絶対そんなやり取りはしていないと思うが、とにかく風速はわかる。ネチネチした自民党のこういう組織論は、日本で組織に属していれば、あらゆるところで役に立つのは間違いない。そういう意味で、とてもいい本かもしれない。