覇権国になれるのか?なれないのか?アメリカに勝つか負けるか?『中国が世界を攪乱する-AI・コロナ・デジタル人民元』野口悠紀雄

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著者紹介

野口 悠紀雄(1940ー)

1963年、東京大学工学部応用物理学科卒業。
1963年、東京大学大学院数物系研究科応用物理学専攻修士課程に入学したが、1964年、修士課程を中退し、大蔵省に入省。理財局総務課に配属。

1969年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校より経済学修士 (M.A. in Economics) 学位取得。1972年、イェール大学より経済学博士 (Ph.D. in Economics) 学位取得。
1973年、大蔵省主計局調査課長補佐。

1974年、大蔵省より出向し、埼玉大学教養学部助教授。
1978年、一橋大学経済学部助教授。
1981年、同学部教授。
1987年11月に『週刊東洋経済・近代経済学シリーズ』で「バブルで膨らんだ地価」という論文を掲載しており、『バブル経済』の名付け親として知られる。

目次

  • はじめに
  • 第Ⅰ部 米中経済戦争の進展
  • 第1章 新型コロナウイルスは経済活動をどの程度落ち込ませるか?
  • 第2章 米中の制裁関税で大きく落ち込む貿易
  • 第3章 複雑化した政策対応
  • 第4章 米中ハイテク戦争
  • 第5章 リブラ VS デジタル人民元
  • 第6章 アメリカでは危機感拡大、日本は危機感欠如
  • 第Ⅱ部 長い停滞から脱し、世界の工場からIT先進国へ
  • 第7章 なぜ中国は長期停滞に陥ったか?
  • 第8章 長期停滞から脱して世界の工場へ
  • 第9章 アリババの大躍進
  • 第Ⅲ部 未来への驀進に危険はないか?
  • 第10章 信用スコアリングの光と陰
  • 第11章 中国スタートアップ企業の目覚ましい躍進
  • 第12章 中国の未来
  • 終 章  コロナウイルスに見る中国国家体制の強さと弱さ

概要(ブログ主の勝手なまとめ)

野口悠紀雄氏は、私の中でダサい学者、というイメージがあった。

引用や他人の意見ばかりで、自分の予想・主張がないことが多いからだ。

東大卒の典型的な「間違うことを怖がって何も言っていない」タイプの学者というイメージで、その点は今も変わっていない。ただ、それ故に政府をコントロールする発言をする。つまり、政府の知らないところで、裏で走っている“いわく付きの主流提言”をする人物という評価だ。

そして、本書の中国論は、確かに世界のエスタブリッシュで主流となっているものだ。

デジタル人民元は、どうなるのか?

結論を言う。

中国の「デジタル人民元」は、手数料無料で解放されるだろう。そして、個人情報を共産党に引き渡すことに全く抵抗がない中国人を経由しつつ、そのコストの安さ・使い勝手の良さが故に、既存のデジタルマネーを駆逐して、世界中の情報を吸い上げる通貨になる可能性がある。

しかし、この話にはオチがある。

おそらく、AIを駆使し切っても、中国はそれらの情報を効果的に活用できるようになるまで、かなりの時間がかかるし、活用できたとしてもどのくらい役に立つかわからない。

そういうことが大まかに言って書かれている。

ビックデータの専門家が、中国に集結している理由

中国人留学生の優秀な学生たちは、アメリカにとどまり、帰ってこないと言う。

だが、それは一部の成績優秀者だけで権威者候補だけだ。

つまり、優秀ではない修士号・博士号取得者で、アメリカで職に就けなかった学者が、中国にどんどん帰ってきている。と、野口氏は言う(自身も似た感じだからよくわかるのだろう)。

だが、例外的に中国に世界有数の権威者が集中している分野がある。それは、ビックデータの活用やAIを使った集計システム系の学者である。

なぜなら、中国ほど政府が個人情報を躊躇なく使いまくって、実験しまくれる環境はないからだ。むしろ、欧米や日本などの先進国ではビックデータの実質的な活用(個人情報とか)の研究は禁止されているに等しい

この情報は、普通に考えたら当たり前だが、野口氏が語られなければわからないことだ。

中国はアメリカを叩けるが、アメリカの代わりにはなれない

デジタル人民元が、世界通貨になるかどうかは中国が覇権国になれるかどうかと関係している

デジタル人民元がドルに変わって市場を席巻するためには、当たり前のことだが、中国という国がアメリカよりも魅力に溢れる必要がある。その点を後半部では語っている。

それを単純に、中国の覇権国化、という話題に絞って、さまざまな情報が野口氏によって分析されている。このトピックは、なかなか答えが出しにくいものかと思っていたが、野口氏はあっさりその答えを出している。答えは、中国は覇権国になれない、だ。

共産党体制は、覇権国に必須の “寛容さ” を手に入れることができない

過去の世界覇建国の条件は、経済的に世界で最も発展し、その時点で世界中のどの国よりも、人種的にも思想的に寛容であること、だという。

アメリカは、ブーブー言いながらも全ての人種を受け入れている。

過去の中国も、帝国時代は民族紛争を抱えつつも、全てを内包することで最大の面積と最大の人口を誇って、その経済的な発展から自然と“寛容さ”を伴ったという。

だが、共産党の独裁政権が続く限り、現在の中国は寛容になれない。確かにそうだ。だから、覇権国にはなれない。そう結論づけている。経済的に世界一発展したバブル期の日本のようにはなれる。でもそれだけだという。この結論に、私は結構驚いたが、同時にかなり腑に落ちた。

以上が、本書の主な内容だ。

Q:どんな人が本書を読むべきか?

A:中国のアリババの成り立ちやテック企業の勃興の様子が、他の書籍にないレベルの充実した情報量で本書で語られている。ここ20年の中国の産業に関して、野口氏はとても詳しく、そしておそらくそれは彼の性格的に、かなり的確だと思う。

これらのことから考えるに、この本を読むべき人は、中国が覇権国になると信じてやまない人で、そのスタンスが自分の仕事や生涯設計に関係している人だと思う。

要は、本書でできるだけリスクヘッジ(防波堤)を作っておいた方がいいと思う。

コロナ後、中国の立ち回りを見ていた世界のエスタブリッシュは、本書と同意見だろう

コロナ禍で、中国の民衆支配や国家運営の手法が世界的にバレたといわれている。

感染症の封じ込めに、圧倒的な能力の高さを見せた分、その後の経済の運用に大きな欠点を晒したのも事実だ。自由な経済発展がシュリンクし、恒大集団などの不動産バブル崩壊からの経済衰退が一気に進んでしまった。その辺の内情が本書でも詳しく書かれている。

ただ、私はそれでも中国独自の訳のわからないやり方で、覇権国に上り詰めそうな気配を感じているが、本書に書かれた知識のスッキリ感は、確かに無視できない。

なので、今後もそれなりに有効な知識であるとは思うので、読んで良かったと思う。

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