詐欺師か、世紀の伝道師か。ナポレオン・ヒル完全解剖解説 現代でも影響を与えつづける“金儲けの秘訣”とは

オーディオブック

この記事を書く、私、PIT監督とは?

2000年代前半からライター・ディレクターとして活動。その後、東京芸術大学大学院映像研究科を修了し、映画監督と社会人を平行でこなす。

多くの海外の映画祭で受賞・上映歴あり。

助成金を受けた映画製作経験も複数あり。

現在は金融系の出版社で編集者をしつつ、世界基準の海外ビジネス系書籍を読み漁る。不動産投資、株式投資も行う。

著者:ナポレオン・ヒルについて

ナポレオン・ヒル(Napoleon Hill 1883年10月26日 – 1970年11月8日)は、アメリカ合衆国の著作家。成功哲学の提唱者の第一人者の一人であり、『頭を使って豊かになれ (邦訳:思考は現実化する)』(Think and Grow Rich)の著者。
26歳のときに、鉄鋼王アンドリュー・カーネギーの依頼で、2000人の成功者に20年の歳月をかけて、取材。500人以上の共同制作で『Think and Grow Rich』を書き上げる。本書は、大恐慌時にアメリカ人を勇気づける自己啓発とビジネス成功哲学の確立に貢献した。

というのが、主な同氏のプロフィールだが、海外では非常に疑惑の多い人物として知られている。それについては以下で述べる。(『ナポレオン・ヒルへの批判』を参照)

アマゾンでは、ヒル博士への批判にもかかわらず『Think and Grow Rich』に5万以上のレビューが寄せられている。

ナポレオン・ヒルの特徴

主な特徴と言えるのは、欲望の肯定決断主義潜在意識の活用だと言える。

決断主義に関しては、自分の無意識にある願望に対して、飛躍し過ぎていてもどれだけ忠実に決断をできるのかという感じである。潜在意識の活用に関しては、いわゆるジョセフ・マーフィーの『眠りながら成功する』といった類の根拠の浅いものではなく、非常に地道にしっかり練られている。

一番の特徴は強烈な『欲望の肯定』

日本人が本書を読むにあたって、一番衝撃を受けるのは『欲望の肯定』であろう。なぜなら、ナポレオン・ヒルの考えの大前提として『性欲は能力の源』という考えがあるからだ。

日本人は全体的には仏教の国である。

仏教はこの『性欲の肯定』とは逆の宗教度が強く、キリスト教やイスラム教よりもはるかに高い。また、共存の意識が強く、動物の殺生などにも禁忌があり生と死に対する意識は、やや強めである。

これが、日本人の消極的な性欲や欲望への影響としても現れている。

故に、アメリカ人が全体的にすんなり受け入れることができたナポレオン・ヒルの最大のエッセンスに対して、拒否反応が出るケースも少なくないと思う。

日本は、あくまで清貧と貞潔が“常識”の国なのである。

ナポレオン・ヒルへの批判

ヒル博士の死後、版権を持つ財団や出版社の多角化展開による影響

彼の死後、カーネギーやフォード、エジソンの子孫が、ナポレオン・ヒルとの関係を否定したり、政府の要職に就いたという証拠が無い等が、さまざまな場所で語られるようになった。

ただ、これらは本人ではなく、その子息、といいうことに注意してほしい。

これは有名人のバイオグラフィーを否定する裁判を起こし、賠償金を稼ぐムーブメント(近年ではサルバトール・ダリの隠し子訴訟やマイケル・ジャクソンの児童虐待訴訟などが有名)としても考えられるが、私はある種、彼の残した著書やビジネススタイルにも関係していると考える。

まず第一に、彼が亡くなった後、彼の周囲の行動が生前より逆に活発になってしまったこと。

財団や出版社(日本ではきこ書房)がナポレオン・ヒルのブランドを用いて、高額セミナー、高額情報商材などを作り、荒稼ぎをするようになったのだ。

これらが読者の感情的な反感を作っていると予測できる。

また、70年間家族によって封印された『悪魔を出し抜け』(私のベストビジネス書)で、反宗教、反学校教育を展開した。これによって、彼はあらゆる業界に非常に敵が多い人物にもなってしまった。

本の中で、ナポレオンヒル自身が予言したのと全く同じ顛末となったのだ。

日本でも版元の出版社(きこ書房)をはじめ、さまざまな企業から彼の名前を冠した40万円以上の高額商材が売られている。さらにしかも凄いことに、ヤフオクでは堂々とそれらのコピー品が激安で販売されており、ハイ&ローでの著しい汚い流通が展開されている。

橘玲氏やユヴァル・ノア・ハラリ氏などもフォロー。リベ大両学長などにも引き継がれている

しかし長い目で見ると、これらの“金の亡者”的なイメージは、しょうがないことがわかる。誰だってタダで儲かる情報が欲しい。情報を配る方は、全ての人間を受け入れるわけにもいかず、その労力は半端ではないし、うまくいかなかった時のリスクは高い。

これらの結果、当然、成功ノウハウには金銭が絡んでくる。

そんなことからか、自己啓発批判で有名な橘玲は、著書の中で頻繁にナポレオン・ヒルの書籍のダークで正直な部分を引用してくる。この流れは、近年人気の経済系ユーチューバーのリベ大の両学長などにも見られる。元々両学長は橘玲の書籍から多くをパクっている。

また、珍しい例としては『サピエンス全史』や『ホモ・デウス』などの著者で世界的なインテリのユヴァル・ノア・ハラリ氏もナポレオン・ヒルをフォローしている点である。ハラリ氏はニヒリストではあり、アメリカ人を忌み嫌っているところがあるのに、ヒル博士に関しては敬意を隠さない。

ナポレオン・ヒルの評価は、時間をかけて安定している

見渡してみて欲しい。

どんなに成功ノウハウを開示して、人々の人気を得たとしても、死後も評価された人間などはほぼいない。そのほとんどが、生前の評価で、自信や出版社の広告効果だ。だが、ナポレオン・ヒルの評価は、疑惑の中でありながらもそれとは完全に異なっている。

しかも、もう完全に戦前の人でしかも主な著書を発刊して80年近くも経っているのに、これだけざわつく賢人も珍しい。むしろ、ありえない異常な現象だと思うべきで、詐欺が詐欺ではないかという論争が一回転して、違う次元にいっていると私は思う

実際、それらの疑惑をはるかに飛び越して、彼のファンは世界に増えている。

おすすめランキング

『悪魔を出し抜け』

関連記事:親族により70年封印。学校・宗教が悪魔の側に立つ事実を証明しながら、性欲の誤った解釈を正し、人生の原動力に変える『悪魔を出し抜け!』ナポレオン・ヒル

本書は、「宗教」と「学校」を辛辣かつ論理的に非難するシーンがあるため、執筆された1938年以降、著者の家族によって70年以上も封印された書籍(出版は2008年:日本は2011年)。

私の一番のおすすめはこの『悪魔を出し抜け』です。

この本は、『思考は現実化する(Thing and grow rich『Think and Grow Rich』)』を書いてベストセラー作家となった直後に書かれており、著者の「本当にこれでよかったのか?」という自身への問いを、悪魔との討論において表現していると言われています。

ナポレオン・ヒルは大成功を収め、アメリカの覇権国化への大きな布石を打ちますが、これは、同時に宗教・教育システムの“常識”を大きく逸脱した考えだった。だから、彼自身、この本を書いた。

『思考は現実化する』の自己啓発的な要素を持ちつつ、さらに人間としての一歩先の世界を垣間見れる、極めて重要な本です。

『思考は現実化する』

関連記事:謎と疑惑の多い生涯だが、驚異的な完成度の自己啓発書を出版。資本主義社会を初めて言語化『思考は現実化する』ナポレオン・ヒル

『思考は現実化する』(『Think and Grow Rich』)
イギリスの支配から独立したアメリカの、真の覇権国の道を推し進めた、米国人なら誰もが知る自己啓発書。今読んでも精度が凄い。

自己啓発書というのは、10年経てば古くなり、全く役に立たなくなるのが普通です。そんな中、この本は今でも売れ続けている。しかも、いまだに派生した高額商材などの怪しい商品が売れてしまうという、現役の作家でもあり得ない影響力を持っています。

それだけ、本書の精度が凄いということです。

変な高額商品があるのは、まあ、よしとして許してあげましょう。本書を読んだからといって、全ての人が豊かになることは不可能です。

ただ、世界で一番成功者を生み出したと言えるのは、この著作だというのは、紛れもない事実。読んで損はありません。

『巨富を築く13の条件』(初心者向け)

関連記事:“金を稼ぐ”に特化して過去書籍を再編集。強烈な反骨心。橘玲や両学長に引き継がれるメソッド『巨富を築く13の条件』ナポレオン・ヒル

『巨富を築く13の条件』が初心者向けというのには、二つの理由があります。それは、記憶に定着しやすく、ナポレオン・ヒルの概念がまとまっているというところ。同書は『思考は現実はする』から金銭を稼ぐことにだけ注目して、そのエッセンスを抽出しています。

読書時間は、おそらく『思考は現実化する』の3分の1以下で読み切れるでしょう。ワークショップ的なものもほとんどありません。

『新・完訳 成功哲学』

関連記事:独自編纂でオリジナルに最も近い。著者自身の聴覚障害児の子育てから着想。再現性の高い成功術:ナポレオン・ヒル『新・完訳 成功哲学』アチーブメント出版 要約

『新・完訳 成功哲学』は、これもまた『思考は現実化する』同様に『Think and Grow Lich』を原典としています。そもそも原典はアメリカの大恐慌時代である1930年代に書かれたもので、記事の引用や具体例も当時の企業だったり、常識的なものだったりと、日本の翻訳では理解されにくいものも多い。しかも、全体的にページ数が多く、翻訳の関係上からカットしている部分がありました。

同署は、それらをなるべく残して忠実に翻訳されています。そこからわかることは、原典は思った以上に、ナポレオン・ヒルの子育てだとか、大学の新卒生に向けたメッセージが多いということ。

つまり、元々のターゲット層は、学生から主婦などの層だったのです。

『思考は現実化する』はもろビジネス層に向けた、編纂ですが、子育てや新卒などのキャリアスタート的な面での興味がある方はこちらがいいでしょうね。

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