著者紹介

エリン・メイヤー(1971〜)
米ミネソタ州生まれ。異文化マネジメントに焦点を当てた組織行動学を専門とする。
異文化交渉、多文化リーダーシップについて世界中で教鞭をとり、グローバル・バーチャル・チームのマネジメントや、エグゼクティブ向けの異文化マネジメントなどのプログラム・ディレクターを務めている。「ハーバード・ビジネス・レビュー」「ニューヨーク・タイムズ」への寄稿多数。
2015年には次代を担う世界の経営思想家として「Thinkers50 Radar Award」を受賞。
本書内では、日本で実際に業務した経験も書かれており、彼女の提案する異文化交流のコツは、実は日本での体験がベースになっていることもわかる。つまり本書は、日本人向けだ。
概要(ブログ執筆者による勝手なまとめ)
異文化理解に最も重要なことをまとめた本書の概要は、なかなか一言ではまとめられないので、簡単な例として、本書に書かれた具体的なトピックを一つ書いてみる。
間接的・直接的表現は、言語によって違う = 感情が言語によって違う
国によって、言語感覚が違うのは言うまでもない。
そんな中で、他人にメッセージを伝えるときに使われる言葉が、ハイコンテクスト(間接的)、ローコンテクスト(直接的)かを知るのは重要である。
ハイコンテクストは、回りくどい。
ローコンテクストは、やや失礼な感じだ。
主だったハイコンテクストな国は、例えばドイツ、日本、中国、フランス、イタリアなど。
主だったローコンテクストな国は、アメリカ、ブラジル、イギリスなど。
ハイコンテクスト言語は、気にしすぎ文化
日本やフランスが回りくどく、空気的なものを重視するのはハイコンテクストであることはすぐに理解できるだろう。では、ローコンテクストとはどんな感じか?
例えば、具体的な指示がないとレストランのオーダーが出てこない国。例えばアメリカやイギリスなどがこれに当たる。また、中途半端なことをいうと、都合よく解釈されてしまうブラジルは、ローコンテクスト言語の中でもとりわけ際立った存在だ。
すぐ使える知識・ノウハウがてんこもり
このように、本書では異文化理解に関して、読んだその次の日から即使える知識が満載である。しかも、現時点でほとんど日本人が馴染みのないものばかり。
私も東京芸術大学では、多くの留学生と映画制作をしたが、この異文化理解がうまくいかず、トラブルの毎日出会ったことを思い出す。
本書がそのときに手元にあったら、、、、。と、今では思う。
Q:どんな人が読むべきか

A:外国人がいる職場やクライアントに勤務している人。場合によっては、在日の二世やハーフ、帰国子女のいる職場などでもかなり役に立つかもしれない。
本書では、上司との人間関係、チームでのミーティングの進行、組織としての意思決定から、同僚のランチへの誘い方まで、ありとあらゆる異文化交流のトラブル回避の法則が書かれている。
ポイントは、トラブル回避の方法ではなく、法則が書かれている点である。物事の根本を押さえ込むものを法則という。つまり、本書はかなり強力なノウハウ集だと言っていい。
しかも、覚えることが少なくて済む。
Q:著者はなぜこのような書籍を書けたのか?
A:言語レベルの「ハイコンテクスト」と「ローコンテクスト」の2種類に気がついたからだろう。ここから全てが、シンプルでわかりやすく、最小限の知識でいけるようになる。
はっきり言って、本書のこのハイコンテクストとローコンテクストについて書かれた部分に加えて、これも本書にあるのだが、わずかな例外を覚えるだけで、大概の異文化問題は解決するだろう。
この例外の見極めも本書の優れている点である。
それだけ前半部分がキモだし、そこに著者の業績が凝縮されている。
Q:日本のこともだいぶ書かれているが……
A:実は著者は、日本で長期間勤務した経験がある。具体的な職務や所属企業は書かれていないが、それはどうやらシステム系の会社で、いろんな日本人と打ち合わせする業務であったらしい。
実際に担当した日本のアステラス製薬との取引の中で、日本の稟議書システムなどの代表的な日本の意思決定メカニズムを体感しており、それに基づく経験談が書いてあった。
全体的にも、日本人の攻略度が高い。
それはつまり、本書がとりわけ日本人に効果的な本だという言い方もできる。現実の日本の実情と比べても、違和感がない。
Q:日本のハイコンテクスト文化は世界でどうか?
A:よくある、日本から海外に出たビジネスマンやアーティストなどが『日本人のここがクソだ』『だから日本はだめなんだ』みたいな、ぶった斬りのシーンが本書にはない。
むしろ日本のこの融通の聞きにくいハイコンテクストの魅力すら感じる書籍だ。
ハイコンテクストとローコンテクストという枠組みができたおかげで、日本文化の閉鎖性みたいなものは、むしろ日本だけの異例なものではないことが、本書を読むとわかる。
ハイコンテクストかローコンテクストかは、実は相対的な要素で決まるのだ。例えば、日本人はドイツに比べてローコンテクストだ、と言えたりするわけだ。
イギリスは世界的にみても、ハイコンテクストの社会だが、フランスや日本に比べるとローコンテクストであり、よってイギリス人はフランス人や日本人とビジネスをするときに、トラブルが起きるケースが多い、という感じで要はバランスなのだ。
この辺の考え方・解決方法も本書で丁寧に書かれている。
良書である。異文化理解の本で、ここまでのいい本は珍しい。