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著者紹介

魯迅(ろじん)1881〜1936
浙江省紹興府の士大夫の家系に生まれた。父は周鳳儀、母は魯瑞、弟に文学者・日本文化研究者の周作人(1885年-1967年)、生物学者の周建人(1888年-1984年)がいる。中国で最も早く西洋の技法を用いて小説を書いた作家である。その作品は、中国だけでなく、東アジアでも広く愛読されている。中国でも全ての国語教科書に彼の作品が収録されている。
日本留学後から逝去まで
1902年:国費留学生として日本へ留学(21歳:医学専攻)
1904年:仙台医学専門学校に入学。のちに文学に転向。欧米文学の中国語への翻訳・紹介に注力。
1909年:28歳のときに帰国。その後、学革命運動に参加。
1918年:36歳のときに『狂人日記』を発表
1921年:『阿Q正伝』を発表
1920〜1926年:北京大学、北京女子師範学校の講師を務めながら短編小説や散文詩を発表
1927年:17歳年下の教え子と上海に移り同棲、48歳のときに長男誕生
1930年代は、国民党政府によって粛清対象となる
1936年10月19日:魯迅は持病の喘息の発作で急逝。55年の生涯を閉じる
小説あらすじ(ブログ主の強引まとめ)
昔、本名すらはっきりしない阿Qという男がいた。
いつも言うことが混沌としていて、頭がはっきりとせず、喧嘩が弱いのが特徴。
だが、自分は本当は偉いんだ、という自己正当化意識だけは人一倍強く、それにしがみついて生きているような人間だった。
ある日、ひょんなきっかけからとある金持ちの家の女中のほっぺをつねったことにより、性欲が開花。その女性に強引な結婚を迫ったことで、働いている職場を首になり、流浪の生活が始まる。
さらに悪るさをして村から追い出された後、1年後に豪華ないでたちで村に帰ってくると「城で働き、成功した」という噂で持ちきりになるが、実は阿Qは、富豪の財産を盗んで売り飛ばしただけで、犯罪者のような、だが、なんだかはっきりしない暮らしをしていただけだった。
その後、辛亥革命(清国と中華民国の抗争)時に村に革命軍が来くると、かっこいいと言うことで革命軍に憧れるが、革命軍には相手にされなかった。
が、村人たちには革命軍と勘違いされて、最終的には無実の罪で、知らないうちに死刑となる。
しかし、阿Qは、無実の罪であるにもかかわらず、騒がず、抵抗もせず、辞世の句も語られず、あっさりと銃殺される。
処刑場に来ていた例の金持ちの家の女中は、阿Qではなく、彼を撃ち殺す銃の方にうっとりみとれるくらい無味乾燥で、村人たちは口々に「つまらない死刑だった」と語った。
終わり……。
解説
本書の特徴を箇条書き
- 中国の高校の教科書に掲載されており、全ての中国人が知っている小説
- 中国人のマインドを魯迅が擬人化した
- 内容的に岡田英弘(中国・モンゴル学の権威)の中国人論に近い
- 現代の中国人の特性(偽物・コピー文化・地方腐敗・粛清)ともほぼ同一
- 阿Qの性格は、現代の中国人の大衆としての性格とほぼ変わらない
- この大衆特性は中国人も自覚しており、今後変革される可能性もなくはない
私が本書を読んで思ったのは「ああ、岡田秀弘の本と同じことが書いている」というものだった。特に『妻も的なり』『この厄介な国、中国』あたりの中国研究本の内容とほぼ同一で驚く。
岡田英弘

岡田 英弘(おかだ ひでひろ、1931年(昭和6年)1月24日- 2017年(平成29年)5月25日)は、日本の東洋史学者。東京外国語大学名誉教授。東洋文庫専任研究員。専攻は満洲史・モンゴル史であるが、中国・日本史論についての研究・著作もある。
岡田氏の書籍であれだけ膨大な文字で書かれた内容が、60分くらいで読める小説として実にあっさり的確にまとめられており、小説自体は対して面白くはなかったが、その省略手腕自体は凄いと思った。
魯迅は、アヘン戦争や辛亥革命から中国が不安定な国へと変貌していく様子を嘆き、危機感を持って中国の本質を国民達に教えようと本書を書いたらしい。
それが、この『阿Q生伝』という小説である。
Q:どのような人が読むべきか?
A:もちろん、中国人の特性をいち早く知りたい人だ。
だが、この本はいわゆる『中国人の欠点』の凝縮であり、中国人に本書を読んだことはあまり伝えない方がいいのは間違いない。
それと同時に、本書で書かれている『中国人の欠点』は、彼らが現在も自覚しつつも、直したいのに直せない部分であるとも言える。
現代の中国はこの本来はマイナスポイントの『中国人の欠点』を、悪用して経済大国になっている分、本書読んだ後で、闇が深いな、と個人的に感じた。
Q:その闇深さとは何か?
A:さまざまな中国本を読むと、中国の近代化には正直さと民主化の獲得手続き(正直さ=法整備、民主化=普通選挙制移行)が必要だと言うふうに書かれていることが多い。
それらの最大の課題の克服が、本書を読むと半ば不可能に見える。
もし、正直さと民主化の獲得手続きを実行するとしたら、それは中国人以外の新しい人格を備えないとダメかもしれないと言う、そんな壁の高さを感じた。
彼らは、成長ドライバーとして『中国人の欠点』を使ってしまった。
経済大国になってしまったあとでその『中国人の欠点』をひっこめるのは、そうとう困難だと思わざるをえない。
Q:中国人自身はそんなことを知っているのでは?
A:それはそうなんだろう。
しかし調べてみると、毛沢東も本書が愛読書だったということだ。
つまり、ずっと自覚があり、直したい習性だっただろう。
だとすると、知っているからといって、新しい世代がこの性格を簡単に克服できるのかどうか、わからないと言うか、かなり難しいのではないかと思ってしまう。
かつてリー・クワンユー(シンガポール建国者)の自伝書籍で、中国は民主化ができなければ、覇権国になれないと書いてあったが、その期間に100年近くかかるとも書いてあった。
関連記事:シンガポール建国者が体得した世界情勢を、最速で簡単に知る(動画あり)『リー・クアンユー、世界を語る』(要約)
その真の意味が、本書を通してようやくわかったような気がする。
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