超ヒマな“ボロ儲け組織論”、隠れた“利益積み増し”、見た目だけの“値引き”『ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か』エリヤフ・ゴールドラット

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目次(表面上の小説としてのタイトル)

  • 1 突然の閉鎖通告
  • 2 恩師との邂逅
  • 3 亀裂
  • 4 ハイキング
  • 5 ハービーを探せ
  • 6 つかの間の祝杯
  • 7 報告書
  • 8 新たな尺度

著者について

エリヤフ・ゴールドラット(1947-2011)

著者プロフィール:『ザ・ゴール(The Goal)』執筆前

物理学者・イスラエル出身。バーイラン大学で博士号を取得し、物理学者の道に進む。物理学者として大学に勤務しているときに、とあるイスラエルのメーカー企業の支援を経験する。その時の成功経験がきっかけとなり、学者を退官。

その後、クリエイティブ・アウトプット社に入社し、生産技術(OPT)をと言うソフトウェア・パッケージを開発し、販売を開始する。しかし、当初この発明は社内では理解されず、またソフトウェア自体にもなかなか上手くいかない状況が続いた。

著者プロフィール:『ザ・ゴール(The Goal)』執筆後

理論的に完全だと思っていたOPTがなかなか上手くいかなかった原因を、マネージャーと従業員の習慣とパラダイム(仮定)の癖が無くならないことが原因であることを発見したゴールドラットは、それらの周知方法を改善すべく、小説スタイルの『ザ・ゴール(The Goal)』を13ヶ月間かけて執筆した。

しかし、この書籍を使った導入もうまくいかず、ゴールドラットはクリエイティブ・アウトプット社を解雇されることになってしまう。

ところが、同時期に日米経済摩擦が発生し、アメリカの製造業が大打撃を受けることに合わせて、本書に徐々に注目が集まり、そもそもの本書執筆のきっかけに含まれていたトヨタの改善方式への分析などがきっかけとなって、注目されてくるようになる。

ブログ主の勝手な解釈・感想

トヨタのカイゼン方式+会計理論により、サプライチェーンマネジメントの経典となる

本書のキモを先に示しておく。それは以下の3点に絞って経営・生産活動を見たところだ。

  1. スループット(利益)の増大
  2. 在庫(制御しやすい経費・いわゆるムダ)の低減
  3. 業務費用(制御しにくい経費・人件費)の低減(転用や配置換えを含む)

複雑に見えて、さまざまな企業独自のクソルールを生み出してきた「経営」を、上記の三つの視点に絞ることで、問題の早期発見、金銭の流れの見える化をしたのがこの『ザ・ゴール』だと言える。

そして、この肝心なのはスループットの秘密を解説したのも大きい。

スループット(利益)の大きさ = ボトルネック(生産能力の最も低い部門)

ボトルネックは、その企業の生産活動の最大の出口に、勝手になってしまう(そしてそれはほとんど望まれてない

この一見関係ない『利益=問題部門(トラブル・非効率)』の関係を示したことが、ゴールドラットの最大の業績だと言える。トラブルや非効率を解消できれば、利益が上がる、そういうことである。

この、工程の果実でありながらも排泄物に密着している状況があるゆえにイメージの差ゆえに、人間は歴史的にこれまでずっと生産活動の非効率化を起こしてしまっていたのだ。

これらのことを本当の意味で最初に気がついたのは、実はトヨタ自動車であり、それはかつてカイゼン方式(豊田喜一郎らが提唱、大野耐一らが体系化)と言われた手法だった。

だが、カイゼン方式は製造工程までしか目が行き届いておらず『ザ・ゴール』のような会計学も絡んだ利潤の考え方が足りなかった。

関連記事:意外と知らない、トヨタの「カイゼン」の本質

『ザ・ゴール』に描かれた、実質的ではない “値下げ” と隠せる “利益積み増し”

『ザ・ゴール』の会計的に優れた点は以下のとおりである。

  • 一般的な値下げ交渉が、実は値下げ交渉ではないケースがある
  • 利益積み増しを、クライアントに隠れたところで行える

小説の中で、一番初めにTOCの異変に気がつくのは、経営幹部たちである。どのように気がつくかといえば、既存設定のコスト換算に当てはめると、TOCは表面上の大幅なコストアップ行為に見えたのだ。

だが、収益は大幅に改善し、効率も向上。社員たちは、暇にしながら、膨大の業務量をこなすという妙な状況になる。このみょうちくりんな状況は、すべて既存の会計基準によるものなのだ。

つまりこれは裏をかえせば、身内の会計方を騙していることであり、顧客への見積もり提出も騙せるということを意味する。時として、会計基準というのはこのように、技術変革についていけずに、遅れて変になる瞬間というのが、いつの時代も存在しているのだ。

アメリカのGAFAMを代表する近代ツールは、すべて『ザ・ゴール』の思想

私の40年近い人生経験から、さかのぼって考えるときに、1980年代ころのアメリカ人というものは、決して「効率至上主義者」ではなかった。むしろ、国民全体がのんびりとしていた。

それが、長らく続いた非戦争的な覇権国争い(日米貿易摩擦、米中貿易摩擦)によって、短期間にアメリカ人はその国民性を変えた。その原点が、この『ザ・ゴール』ではないかと思っている。

なぜ、本書は小説として書かれたのか問題

主人公は、仕事もうまくいかず、家庭も崩壊し、離婚寸前からスタートする

サプライチェーンマネジメントの聖典扱いされる『ザ・ゴール』は、いわゆるビジネス本のスタイルではなく、なぜか小説として書かれている。これには、経済書を読み慣れていないアメリカ人に、高度な経営手法を教えたい、という著者の考えもあるが、それは大事なものではない。

物語とは“悲劇”のことである

小説=物語というものは、一言で言うと『悲劇』を意味する。

これは、過去に紹介した『千の顔の英雄』(ジョセフ・キャンベル)に書かれたことであり、原典としてはギリシャ悲劇などを引用しながら、丁寧に証明されている。

関連記事:映画脚本を均一化したシド・フィールドと『セイブ・ザ・キャット』は、悪か善か?映画祭脚本賞受賞多数の藝大院卒監督の分析

喜劇もあるじゃないか、という人も当然いるだろう。

だがよく考えて欲しい。

その喜劇が笑っていたり、励ましているものは実際「悲劇や不幸」じゃないか? もしくは、何のために笑わせるかというと、そこには激しい感情があったりしないか? 貧しさや身分の低さを逆転させようとして、いろいろな笑いが仕掛けられていないか?

つまり、ストーリーを構築する上で、表に出す出さないは別として、ほぼ全ての作品が同期としての「悲劇」の物語として作られることになっているのが、ほとんどなのだ。

自由恋愛の経済大国の病:離婚

アメリカ人に、本気で経営を学ばせるために必要なこと、それは「今、お前は地獄にいる」「今のお前は幸せから程遠い」ということを、認知させること。

小説『ザ・ゴール』は、いきなり主人公が3ヶ月で倒産予定の会社に血だらけになりながら寝泊まりし、あげく妻は出ていき、一家は離散して、家庭崩壊からスタートする。

つまり著者のゴールドラットは、自身の上層部に組織に受け入れてもらえなかった長く辛い経験から、ガッツがあり、不幸から立ち直ってリッチになりたいと言う熱意のある読者を、できる限り効率的にコントロールしようとして、小説(悲劇)のスタイルを採用したように思える。

Q:どのような人が読むべきか?

A:経営の大枠を掴みたい人

世の中には、京セラの稲盛和夫や堀江貴文、両学長のような生まれながらに、金を稼ぐことや経営学を知っている人間がいる。それはこれまで特殊な才能として崇められてきた。

だが、本書『ザ・ゴール』はそれを超簡単に表現した書籍だと言える。

膨大な文章量で読むのに時間がかかるものの、人間の歴史を支配してきた経営的な思考を、しっかりと定着させてくれる数少ない良書だと言える。

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