こちらの映画はアマゾンプライムやU-NEXTでも観られます。
作品情報
タイトル:心と体と(Testről és lélekről)
カンヌ国際映画祭でカメラドール(最優秀新人賞)を受賞したイルディコー・エニェディ監督による24年ぶりの2017年のハンガリー映画。第67回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門で上映されて最高賞である金熊賞を受賞し、さらにFIPRESCI賞とエキュメニカル審査員賞も獲得した。
出演のアレクサンドラ・ボルベーイが第30回ヨーロッパ映画賞でヨーロッパ女優賞を獲得した。

スタッフ・キャスト
監督 イルディコー・エニェディ
脚本 イルディコー・エニェディ
出演者 ゲーザ・モルチャーニ
アレクサンドラ・ボルベーイ
音楽 アダム・バラージュ
撮影 マーテー・ヘルバイ
編集 カーロイ・サライ
あらすじ(宣伝会社の文章)
コミュニケーションが苦手なマーリアは、何かと気に掛けてくれる上司・エンドレとうまく噛み合わずにいた。ある日、ふたりが同じ夢を見ていることが判明し・・・。
ブログ主の勝手なまとめ:演出特化型の監督の映画
本作の監督は、世界屈指のエレガントな演出ができる

さっそく、監督のイルディコー・エニェディについて調べてみたがあまり情報がない。
それもそのはず、キャリアの長さに比べて作品が少ない(33年のキャリアで8本の長編)。わかっていることといえば、キャリア最初の作品(34歳)でカンヌ国際映画祭カメラドール(最優秀新人賞)を受賞しているということだ(1989年)。
カメラドールは特殊な賞で、パルムドールより希少
日本ではカメラドールは、河瀬直美(1997年受賞・最年少受賞※当時)以外は候補にも上がったことがない。日本で演出・俳優統率が優れていると言われたあの濱口竜介でさえ、かすりもしていない。パルムドールを取る確率よりも断然低いということになる。
それもそのはず。この賞は、演出力(カメラワーク・俳優の動かし方)に特化した監督しか取れない賞だ。大袈裟にいえば、演出力で映画の歴史に残るような作家しか受賞できない。
音楽や編集、その他効果に頼った作品はほぼ取ることはない。全体的なクオリティは全く関係ない特殊な新人賞である。受賞後は、もちろん三大映画祭に通りやすくなる。
『心と体と』で描かれるのは、精神異常者の恋愛
『心と体と』の良さを先に伝えておくと、カメラドール受賞者の映画は通常、演出に凝るため眠くストーリーに面白みのないものが多い。だが、本作は実に面白く、暇させない。
明らかに30を超えているが、立ち振る舞いに美少女要素(かつこじらせ系メンヘラ系)が見られる、いかにも日本人好みの内容だというところだ。海外の作品で、ここまで日本のアニメオタクウケしそうな作品も珍しいし、それが権威的な賞を受賞すること自体、かなり稀だと言える。
屠殺場というリアル地獄真っ只中の現場で繰り広げられる極度のコメディ・メルヘン
しかもすごいのは、この作品のメイン舞台が“牛の屠殺場”だということである。
本作では、結構何度も何度も生きた牛を殺すシーンが挿入されるが、おそらくリアルに屠殺をしているのを撮影していると思われる。実は河瀬直美もこういう、動物をぶっころすシーンが好きな監督で、彼女の場合は現実的な怖さを伴うが、本作の屠殺は実にメルヘンでギャップがある。
そしてこの屠殺のシーンが、後々物語と強く結びついてくるのもすごい演出だと言える。
血みどろなのに、見続けながら不思議と元気が出る妙なテンションがある。
メルヘンな内容だが、構成要素はどれも現実的:一般人の恋愛障害のディフォルメ
そんな屠殺やメンヘラという重い内容に、主人公の女性が恋をする男性の右腕の麻痺というのが、さらに話をかける。しかも、映画内で繰り広げられる内容といったら、動物用の欲情剤100キログラムの盗難だとか、不倫、暴力、レイプ的なネタばかりだ。血の描写も少なくない。
だが、それでも本作は実にメルヘンで柔らかく甘い恋愛模様を繰り広げ続け、しかもハッピーになれる作品に仕上がっている。ゆえに、見終わった後も、特に嫌な気持ちになることもない。
そして、重要なのはこれらの展開で描かれるいわゆるコミュニケーション障害というのは、健常者であっても起こしがちな恋愛のトラブルをディフォルメ化した要素をともなっている点だ。
要するに、普通の人でもほとんどのイベントに共感できる作品だと言える。
Q:なぜ、ベルリン国際映画祭でグランプリを受賞したのか?
A:流石にそれはわからないが、一つだけ言えるとすると、ベルリン国際映画祭は、三大映画祭やヨーロッパの映画祭でもとりわけ政治色が強く、極端なストーリーの作品が好まれる傾向にあるというところだろう。これはドイツ人本来の気質にも関係している。
ドイツ人の気質を示すベルリン国際映画祭の特徴
ベルリン国際映画祭のグランプリは正式には、金熊賞と言われる。
その熊は、ベルリンベアーというベルリンの観光シンボルのツキノワグマで、巨大で人を殺しそうなデカくてリアルなデザインから、かなりディフォルメしてペットにしたくなるようなデザインのものまである象徴するデザインだ。これは、世間ではドイツ人をうまく象徴していると言われている。



で、私の勝手なイメージだが、ベルリン国際映画祭の金熊賞は、この熊のイメージに何故か妙にマッチしている作品が多い。それに対し、ヴェネチアの獅子とかカンヌの葉っぱとかは、ほとんど受賞作品や映画祭のイメージと関連づけて考えることができない方が多い。
政治色を競う芸術イベントが多いのもドイツの特徴
また、というかこれがダイレクトな要因かもしれないが、ドイツの芸術イベントは政治色をメインとしたものが多い。その代表が5年に一度開催される世界最高の現代芸術イベントのドクメンタ(ドイツの地方都市:カッセルで開催)だ。
用語解説:ドクメンタ
関連記事:世界一注目される5年に一度の現代美術展「ドクメンタ」はここが凄い

以上のような感じで、本作は映画としても優れながらもドイツ人の気質に相性が良かった可能性が高い。とはいえ、政治性か強いからと言って、難しいわけでもない。政治の知識が皆無でも楽しめる。こういう作品は非常に珍しいので、今回紹介をしてみました。
こちらの映画はアマゾンプライムやU-NEXTでも観られます。