マイホーム所有者は必読。事故物件サイトの悪用被害が出ている、大島てる氏の対談も熱い『正直不動産(12)』

書評

著者紹介

夏原武(漫画原作者 1959〜)

19歳の時に桜美林大学文学部中国文学科を1年生の途中で中退し、東京の下町にある的屋系の暴力団に加入して約10年間ノミ屋、債権回収、地上げなどを行う。

バブル経済時代の月収は600万円から700万円。のちにビデオ専門雑誌編集者を経てフリーライターとなり、裏社会やアウトローに関した題材を得意として『別冊宝島』などで執筆した。
2003年から『週刊ヤングサンデー』で、詐欺を主題とする漫画『クロサギ』の原案を担当。2007年に小学館漫画賞一般向け部門を受賞。詐欺や闇ビジネスに関する単著も多く執筆している。

大谷アキラ(1982〜)
日本の漫画家。山梨県出身。2004年、22歳の時にまんがカレッジ入選。以後、週間少年サンデーやビックコミックを中心に、作品を発表している。『LOST+BRAIN』『ツール!』『機動戦士ガンダム FAR EAST JAPAN』『ニッペン!』『正直不動産』。

巻末インタビューゲスト

大島てる(おおしまてる)は、事故物件の情報提供ウェブサイト、およびそれを運営する日本の企業である。運営代表者の個人名(1979〜 本名:大島学)としても使用する。
家業は1837年(天保8年)創業。現・会長の先々代から不動産関連の事業(賃貸および管理事業)に進出した。「大島てる」という社名はこの先々代の名前から取っている。

転換期となった事故物件情報サイト「大島てる」の開設は2005年(平成17年)。
サイト内の事故物件の定義としては、殺人事件、自殺、火災などの事件・事故で死亡者の出た物件としており、対象となる物件(宿泊施設を含む)の住所や部屋番号、元・入居者の死因を公開している世界的にみてもほぼ類を見ないサイトとなっている。不動産の個人投資家や業者の利用率が高く、現在では同サイトで事前に物件を確認することがほぼ常識となっている

大島てる公式サイト(閲覧注意)

取扱項目

  • 契約不適合責任
  • 賃貸併用住宅
  • 二重譲渡
  • 建築確認
  • 賃貸保証会社

関連記事:『正直不動産、読んでます』で詐欺から身を守れ。現代を生き抜く防御マンガ。正直不動産:全巻解説

概要(ブログ著者によるまとめ)

前巻で課長代理に昇進した永瀬(主人公:正直不動産)の元に、新入社員として岩沢という部下が配属される。岩沢はワケアリの新入社員である。ライバルの悪徳業者ミネルバ不動産からの引き抜きで、主人公の長瀬が勤める登坂不動産に入社してきたからだ。

岩沢は、以前より永瀬の噂を聞いており、ライアー永瀬として、そのインチキ&詐欺師ぶりを警戒していた。だが、上司となった永瀬はむしろ馬鹿正直な営業で、顧客を逃すなど、聞いていた噂と全く逆の人間でそれに面を食う。

怨霊のせいで正直不動産になった永瀬を彼は知らなかったのだ。

そんな中、日々の業務で永瀬と行動を共にしながら、岩沢は彼の過去を徐々に探り始める。

Q:前号からの変化は何か?

A:前号11巻は、ご都合主義で酷い内容だった。正直、ネタもつきつつあったし、もう終わったマンガだと思った。だが、今回は復活した感じがする。

何が変わったかというと、これまで、主人公の永瀬に同行していたのは、月下という若手女性社員だった。それが、この12巻からは元々強いインチキ思考のあった岩沢という転職新入社員に切り替わった。これが、マンネリ化をなくしてよかったと思う。

月下というキャラクターは、本作を女性にも読ませたいという配慮がなされた人物だったのだろうが、性格が安定思考で、永瀬の定番のブレーキ役になり、マンネリ化をしていた。物語が、過激方面に向かわないのだ。

月下の出番が激減して、男臭くなるが、内容は面白くなってきた正直不動産
月下に変わって登場回数が増えて準主役化した岩下。

男尊女卑ではないが、やはり不動産業界というのは変わっているんだと思う。女性をサブで使うと、取り扱える内容に限界が出てくる。それが男性に切り替わったことで、かなりキツめの内容も取り扱えるようになった。あまりやりたかった策ではないかもしれないが……。

Q:読むべき人はどんな人か?

A:現在、マイホームを持っている人。または購入希望者。もしくは、個人の不動産投資家。

今回のトピックである二重譲渡』『契約不適合責任などは、住宅を買おうとしているサラリーマンが覚えておきたい内容だろう。この内容に関する詐欺は、特に中古住宅を購入する場合に、一般人がはめられる可能性が高い。

また、ふんどし王子などの一部の低所得者のカリスマと崇められている不動産投資家が広めてブームになった賃貸併用住宅の地獄についても本書では取り上げられている。

賃貸併用住宅のトラブルは、賃貸物件の中でもとりわけ多い

賃貸併用住宅は、よく、不動産投資家の最初の物件として理想、みたいな言われ方をするが、実に危険度の高いものである。それを無視して、一時期ふんどし王子などのカリスマ不動産投資家が、書籍を出したり、賃貸併用住宅のノウハウを教える高額セミナーを乱発した時期があった。

もし、地方都市や人口減少地域で賃貸併用住宅をしようとしているのであれば、本書を絶対に読んでおいた方がいい。銀行融資が厳しくなった2017年以降、特に個人投資家はこの賃貸併用住宅でのトラブルが続出している。

Q:巻末の大島てる氏のインタビューはどうか?

A:大島てる氏は、ちょくちょく『正直不動産』シリーズの巻末インタビューに登場する。

関連記事:一般人必読のトピックが増加。購入、賃貸、相続、破産による売却『正直不動産』(5)(6)まとめてレビュー 大谷アキラ&夏原 武&大島てる

私自身は、大島てる氏をサイト同様に応援しているが、今回は彼にとって非常にシビアなインタビューになっている。ずっとおどおどしていて、挙動不審だった。

どんなインタビューかというと、現在、大島てるというサイトは窮地に立たされており、同サイトを悪用した詐欺が断続的に起きているその舞台裏が語られている。

対談では、原作者の夏原氏から厳しい指摘が大島てる氏に入り続ける。法律的な面や管理体制が甘すぎて、同サイト発の詐欺的被害が起きているようだ。利益を管理に回していない。

だが、夏原氏や版元の小学館も大島てるというサイトの爆発的な凄さは理解しているようで、このインタビューで浮き彫りになった同サイトの問題は、今後なんらかの対処がされることが期待される。

巻末インタビューの後ろにある、夏原氏の原作者エッセイも今回は非常に読み応えがあった。

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