「ときめき」がさりげなく暴露する広告経済の闇。過去の否定を楽しむ断捨離イズム『人生がときめく片づけの魔法1&2』近藤麻理恵

オーディオブック

『人生がときめく片づけの魔法1・2』は、アマゾンオーディブルの読み放題で耳読みすることができます。

著者について

近藤 麻理恵(1984〜)

職業は片付けコンサルタント。こんまり(KonMari)の通称でも知られる。

東京都中央区立久松小学校出身。普連土学園中学校・高等学校卒業後(偏差値67)、東京女子大学に進学し社会学を専攻する(卒業年未詳)。実家の家族は両親と兄、妹。

5歳から『ESSE(エッセ)』などの主婦雑誌を愛読。中学生のときに本格的に片づけの研究をスタート。家族のものをこっそりと断捨離してきた事実を著書で暴露している。

2010年に出版した『人生がときめく片づけの魔法』は世界40カ国以上で翻訳され、シリーズ累計1,300万部を超える世界的大ベストセラーに。2015年に米『TIME』誌の「世界で最も影響力のある100人」に選出。2019年よりNetflixにて公開された『KonMari〜人生がときめく片づけの魔法〜』はエミー賞2部門にノミネートされ、同年で最も人気のあったノンフィクション番組1位となる。

キャリアについて

東京女子大2年生(19歳)の時、在学中に片づけコンサルティング業務を開始し、独自の片づけ法「こんまり®メソッド」を編み出す。 卒論テーマは「ジェンダーの視点から見た掃除/片づけ」。

大学卒業後、株式会社リクルートエージェント勤務を経て2009年に退職し、本格的にコンサルタントへの道に入る。女性限定の「乙女の整理収納レッスン」や、紹介が必要である「社長の整理収納レッスン」などの業務を行う。

2010年12月27日に『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版)を出版。コンサルティング業の顧客の一人から、片づけに関する本を書いてみることを勧められ、半年間のライティング講座を受けて執筆したという。同書はテレビ、ラジオ、新聞、雑誌などに取り上げられ、2021年時点で世界40か国以上で翻訳出版され、1,300万部を超えるベストセラーとなっている。

結婚とアメリカ進出

2014年春に結婚。同年に米国に拠点を移した。2015年、米『TIME』誌の「最も影響力のある100人」2015年版artist部門で、米国女優ジェイミー・リー・カーティスの推薦で選出された。

2019年1月1日よりNetflixにおいて、近藤が米国の家庭を訪問し片づけ法を伝えるドキュメンタリーのシリーズ番組『KonMari 〜人生がときめく片づけの魔法〜』(原題:Tidying Up with Marie Kondo)が世界190カ国で公開。本作はエミー賞2部門にノミネートされ、同年で最も人気のあったノンフィクション番組1位となる。アメリカを中心とし、世界で片づけブームを巻き起こした。

“こんまり”と“ときめき”を学ぶきっかけ

おっさんの私がなぜ、こんまりの本を読むようになったのか?

理由は、友人の某IT企業の会長が「こんまりはやばい、まるでスピリチュアルだ」ということを私の前で何度も言ったからである。

だが、これに対して、私にはもしかすると……、という予感があった。言っておくと近藤 麻理恵がスピリチュアル的な教祖であるという予感ではない。その友人社長の反応を見て、アメリカで成功する日本人の典型要素を感じたからだ。

日本人要素いいとこ取り、“空(禅)思想家”としての近藤 麻理恵

そして、すぐに私は『人生がときめく片づけの魔法』シリーズを買って読んだ。読んで、私は自分の予想がある程度的中していることを感じた。それは何かというと、こんまりは明らかに「空(禅)」の思想を持っている。ということである。

アメリカ人は『禅』を先行して知っており、このイメージを日本人にぶつけてくる(日本人はなぜかほとんどの人が“禅”を知らない)。

ここがぴったりくると、リスペクトされることが多くなっていく。

“ときめき”=“断捨離”の思想 仏教的な問答主義:モノと対話する

それだけではなく、彼女に対して驚くところも多かった。

『人生がときめく片づけの魔法 改訂版』では、冒頭、資本主義経済が人に広告を使って、いかに必要以上にものを買わせて保有させようとしているかを、説明している。つまり、彼女は、経済学の大枠の流れお金の流れをしっかりと自分の中で掴んでいたのだ。

そして、資本主義の波にまみれて騙されたり、判断ミスをがちな人間の行動に対して“ときめき”という言葉で、断捨離を促す、かなり凄い離れ業をおこなっているのである。

“ときめき”という言葉は、基本的には“商品購入”のための言葉であるが、これをかたづけの文脈で使うと断捨離に際して揺らぎがちな心に鞭を打つ、強烈なキラーワードとなる。

そして、彼女は捨てる前のモノたちと、徹底的に対話をすることを要求する。この流れは、先に述べた「禅」の流れで、日本人よりもむしろ欧米人の方が受け入れやすい。

マーサ・スチュアートとの流れで見る

過剰に頑張り、稼ぐことを要求されてきたアメリカ人

こんまりが海外で評価され始めたのは2010年ごろだといわれている。

それまでアメリカの主婦層でカリスマだったのはマーサ・シュチュアートだった。

こんまりはこのマーサ・シュチュアートと入れ替わる形で、アメリカの主婦に受け入れられた。

マーサ・シュチュワート事件(2004年)からのこんまりブーム

マーサがインサイダー取引で有罪となり、アメリカの主婦のカリスマの地位から転落したのは2010年ごろである。一時は復活して、メディアに返り咲いたこともあったが、そこから以前の勢いに戻ることはなかった(2005〜2009年頃)。

手の込んだものを作る・高級ホームメイド志向→結局はできないし、不用品が増える

ここからは主婦ではないおっさん視点の中途半端な情報となるので、不備があったら指摘してもらいたい。とはいえ、当時はマーサグッズが日本でも街に溢れていたので、全体像はわかる。

当時の肌感覚でマーサの特徴を思い返すと、彼女の指向はオーガニックだとか、アメリカの主婦がかつてやっていたホームメイド感だったと思う。とりわけ、株式ディーラーで毎日が忙しかったマーサのような人物が、手間のかかる家事や手作りの食事を手掛けるという手法に、意味があった。

これは要するに乱暴にまとめると『忙しくても頑張る』『ストレスを抱えていても家事を諦めない』思想であり、そのメンタル的な部分がハイソな人々に受けたはずだ。

“ときめき”は、諦めの美学でもある:こんまりはマーサのカウンターだった説

これに対して、こんまりの思想は全く逆だと言える。

彼女は、“ときめき”という言葉を使って、不要なモノを持っていることいつか使う・いつかやる、という思いを持っている人を、開放する方向に仕向けた。

つまり、マーサなどの広告塔によって誘導された溜め込んだ不用品を、解放するように仕向けたのだと私は考えている。

『人生がときめく片づけの魔法』は、何を意識して書かれたのか?

こんまりは、東京女子大で「ジェンダーの視点から見た掃除/片づけ」という卒論を書いて、その後、リクルートエージェントで働く。その後に、フリーランスになってから手掛けたのは、女性限定の「乙女の整理収納レッスン」や「社長の整理収納レッスン」だ。

「ジェンダーの視点から見た掃除/片づけ」という卒論タイトルからわかるのは、女性という、一般男性よりも外見のためにコストを費やす運命にある女性のストレスを、いかにフォローするかという側面だと思う。

また、「社長の整理収納レッスン」というのも、モノを所有することで一種の差別化を余儀なくされるポジションの重圧に見える。もちろん、両者は片付けにお金を払ってくれるだろうというターゲット設定による意味合いも強いが、いずれにしても片付けストレスを紐づけているのは間違いない。

つまり、彼女は最初から社会的なポジションとストレスが、片づけに関係していることを予想していたのだということだ。

かなり厳しいことが書かれているシリーズ

『人生がときめく片づけの魔法』を読んでみて、総じて言えるのは、かなり厳しいことが書かれている本だということだ。

もちろん響きが優しい“ときめき”というキラーワードや、読んでる人が気分を害さない、ソフトな乙女言葉で彩られているが、その基本は「気合いで捨てろ・どかせ」ということに他ならない。

人間は断捨離をする時、過去の自分を否定し、蔑み、あざけることになる

『人生がときめく片づけの魔法』には、なぜ人がモノを捨てられないのか? また捨てようとする時に周囲の親や友人たちが、それを止めに動いてしまうのか?が緻密に書かれている。

これは、子供や他人にモノを買い与えたりプレゼントする風習と断捨離が負の関係を持っていることを意味しており、これについてもこんまり流の解説で、明確な説明がされている

つまり断捨離というのは、自分の過去の行いが誤った誘導(多くの場合は広告。たまに口コミ)によって騙されたことの証左であり、また他人であっても、それが過去に他人にモノを変え与えたりした記憶と結びつけて、精神を気付けることになる場合がある。

こんまりは特に、両親の前では、たとえ親から買い与えられたもの以外の断捨離でも、見られないようにしなければいけないと説いている。

このように、本シリーズは徹底した経済学的かつ哲学的な考証の上で書かれている本だと言える。

Q:どんな人が読むべきか?

A:片づけ以外の目的でも十分に読める書籍だと言っておきたい。

特に、海外での生活をしようとしている日本人は、本書を通して得られるものが、一般人より多いと思う。よって、おすすめしたいのは、海外志向のある日本人、ということになる。

Q:最大のメリットは何か?

A:可愛く騙されない人間になれること。

私自身、可愛さと騙されないことは、両立しないと思ってきた。

若い時に美人だった女性が、衰えと共に意地悪で怖いおばさんになるのは、100人中100人だと思ってきたが、この書籍を読んで考えが変わった。このメリットは、男性にとってはちっともいいことではないが、女性にとっては大きいのではないか。

『人生がときめく片づけの魔法1・2』は、アマゾンオーディブルの読み放題で耳読みすることができます。

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