カズオ・イシグロの世界戦略・アジア系としての偏見を逆手に取る『日の名残り』カズオ・イシグロ(著)要約・概要

オーディオブック

本ブログに書かれていること

  • カズオ・イシグロの概要
  • 『日の名残り』について
  • アカデミー賞とブッカー賞(1989年『日の名残り』受賞)について
  • イギリス発祥の賞の解説から権威性について
  • 白人社会の国際政治に対する関与方法について

自身の生い立ちなどを語る動画

カズオ・イシグロって、村上春樹のライバルってよく聞くけど、どんなところが違うの?なんでノーベル賞を先に取れたの?

PIT監督
PIT監督

そういう疑問を持っている人は多いよね。カズオ・イシグロが好きな人で、村上春樹が好きな人も多い。今回はそんなことを前提に、国際舞台で現在奮闘中の映画監督の私、PIT監督が、分析していきたいと思うよ

カズオ・イシグロについて

カズオ・イシグロ

  • 1954年11月8日生まれ
  • 長崎県・長崎市出身
  • 国籍:日本→イギリス
  • 最終学歴:イースト・アングリア大学大学院、ケント大学
  • デビュー作:「不思議に、ときには悲しく」(1980年)
  • ブッカー賞(1989年)「日の名残り」
  • ノーベル文学賞(2017年)「日の名残り」「わたしを離さないで」
  • ナイト(2018年)

『日の名残り』という作品について

私に取って、初めてのカズオ・イシグロ作品であった。

イギリス人視点で描かれたロマンス小説で、どちらかというとストーリー展開や結末を楽しむ本ではなく、イギリスの執事制度に関連した貴族外交を、ロマンスとおしゃれな雰囲気で楽しむための読み物であって、特段、特定の読みどころがなくテンションはフラットな感じ。

本作は1989年にブッカー賞(イギリス国籍者のみ受賞可能・当時)を受賞し、そこから世界的な販路を得て、2017年のノーベル文学書へとダイレクトにつながっている作品である。

読み終えて、引っ掛かりがあった

読み終えて、楽しむというよりは、いろいろ思うことがあった。

私も映画という権威性が非常に強いジャンルに携わっているからだと思う。

この本には、カズオ・イシグロの明らかな人種的な戦略が感じられるのだ。

よって、今回は私がなぜ『日の名残り』に引っかかったのかを書いていきたい。

黄色人種がイギリスの政治制度をロマンス的に描いた事

現在の覇権国は、誰もが認める「アメリカ」である。

そして、多くの人は次は「中国になるかもな」「嫌だな」とか思っている。

アメリカの前は、イギリスであり1920年頃に覇権国としての地位を失ったと言われている。カズオ・イシグロの本書は、そんな1920〜30年代のイギリス貴族に仕えた、執事スティーブンスの切ない恋物語という体裁を表面的に取っている。

表紙からはわからないけど、ロマンス小説だったんですね。だから、村上春樹とよく比べられるわけね。

PIT監督
PIT監督

ところがただのロマンス小説ではないんですよね。村上春樹との大きな違いは、カズオ・イシグロは政治色、しかもヨーロッパ調の政治色が強いところなんだよね。

そうなのである。非常に政治的な側面を強く持つ小説だというのが、物語が進むにつれ次第にわかってくる。スティーブンスの仕える貴族は、第二次世界大戦のイギリスの命運を分ける判断をする「ドイツと条約を結ぶか結ばないか」の裏取引に深く関わった貴族だったのだ。

イギリス人でもさえ、知らない執事という職務を極める小説

当時のイギリス執事たちは執事協会に所属しており、厳密なヒエラルキーに支配されていた。その中で、上位のランクに位置していたスティーブンスの父の高齢による衰え、痴呆症、死などの出来事も絡む。主人公のスティーブンスは、いかにもイギリス的な世襲の執事だったのである。

このような、イギリス白人の地位の高い人々の生活を執事を通して、黄色人種であるカズオ・イシグロが描いたことにも大きな意味があるだろう。

植民地支配を非難され、没落したイギリスは自ら過去を誇れない

もともと、イギリス白人たちは大腕を振って、貴族や王族のことを肯定的に描けないという事情がある。それは長く続いた植民地主義だったり、アヘン戦争などによる悪質なアジア支配が影響している。そんな中で、かつて支配したエリア(日本も明治時代はイギリスの属国)から誕生したイギリスの本流の美しい部分を描くカズオ・イシグロは、政治的に非常に好ましい人員だと考えられる。

「賞」という支配形式は、イギリスがアメリカに与えたもの

ここで、話は一旦飛ぶが、アメリカ映画界の成功権威であるアカデミー賞は、実はイギリス王室アカデミーが作った賞である。そして、イギリスにもアカデミー賞があり、実はこちらの方が歴史が古い。アメリカにはアカデミー賞公認映画祭があるが、ヨーロッパにも英国王立アカデミー公認の映画祭が非常に多く、組織団体としては巨大である。

また、報道関係や演劇、写真の権威である米国ピュリッツアー賞もイギリスが作った大学であるコロンビア大学の大学院生・教員たちによる選定がある賞である。

よって、当然、これらの賞は欧米白人の名声を世界に広める役割を示す。

同時に、イギリスによる影響が今でも非常に強い。

販売サイトから引用:米国アカデミー賞は、頻繁に英国を舞台した作品にグランプリである作品賞を与える

王室譲りの権威賞を作ったイギリス。その賞の特徴は『政治性』。

ブッカー賞、アカデミー賞、ピュリッツアー賞を例に出して何が言いたいかと言えば、このことである。これが、植民地支配国から転落したのちの、イギリスの世界への政治関与のスタイルなのだ。

その中で、カズオ・イシグロという作家は、産まれるべくして産まれ、ヨーロッパの権威を広める役割を担うことで、その役目をはたすという特性があり、それがノーベル賞とリンクした可能性が非常に高いのである。そのきっかけというか、第一弾がこの「日の名残り」という作品と言える。

結論:欧米白人の作った権威の傾向を、日本人が一番わかりやすく理解できるのはカズオ・イシグロ『日の名残り』のような作品である

これが、私が本ブログで言いたかった内容である。

だいぶ遠まりしてしまったが、興味を持っていただけたら幸いである。

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