【裏読み】GAFAM社員による「同僚・社会のベストな無視の研究」。生まれながらの効率化社会にあらがう『時間術大全』

オーディオブック

著者紹介

ジェイク・ナップ

著術家、IDEO客員研究員。Googleで、あらゆる仕事を最速化する仕事術「スプリント(デザインスプリント)」を生み出し、Gmailの改良に生かすなど大きく貢献。その後GV(旧グーグル・ベンチャーズ)のデザインパートナーとして、スプリントをスラックやウーバー、23andMeなどで150回以上にわたり実行し、プロダクト構築を助ける。2017年より現職。スプリントは世界中に広まり、国連や大英博物館を含む多くの企業や組織が事業戦略として活用している。著書に世界的ベストセラー『SPRINT 最速仕事術』(ジョン・ゼラツキー、ブレイデン・コウィッツと共著)。

ジョン・ゼラツキー

YouTube、Googleなどのテクノロジー企業で、デザイナーとして「時間」を再設計するミッションに没頭。GVのデザインパートナーを経て、「ウォール・ストリート・ジャーナル」「タイム」「ハーバード・ビジネス・レビュー」「WIRED」他で執筆するほか、ハーバード大学、IDEOなどの舞台に100回以上にわたって登壇するなど、スピーカーとしても活躍中。

本書を読むべき人

  • 多忙すぎて仕事が嫌いになりそうな若手社員
  • 少しくらいいい加減な振る舞いをしてもクビにならない管理職
  • 現代の労働環境に疑問を持っている人
  • 大企業に就職しようとしている大学生・大学院生
  • 経営者・助監督・芸能担当者

ビジネス書籍としてはあまりよくない

一読目は正直、あまりお勧めできない書籍だと思った。
が、二読目には考えがかわった。本書が売れたと言うことは、この書籍が醸し出すあるムードに共感されるものがあったからだと気がついたからだ。

内容に軽く触れておく(本題ではない)

本書で語られるのは、スマホアプリの消去であったり、Eメールの無視の仕方、いかにやる必要のない仕事に”惑わされず”日々を過ごすか、などである。だが、これは、労働者はあえて言わなくても、自動的にそうなるものばかりだ。こんなものは、本書の要点でもなんでもない。

本書を通じて、若手重役たちが共有したもの

では、一体何を読者たちは共有したのか?
それは、グーグルの社員がGメールアプリを消去し、ユーチューブのアプリの通知機能やレコメンド機能を停止したり、見ないようにする、という行為に加えて、同僚を無視して、気の合う仲間だけとしかつながらない選択をしたことに、人間の時間術の限界を見出したからだと思う。

デジタルネイティブの苦しみを表現

本書は必要以上の仲間意識に溢れている。
これに尽きる。共著である必要がなく、それは著者が一人称で論を勧めたくなかったからに他ならない。君もそうだよな?僕もそうだよ。論の本である。
ビジネス書に読み慣れた人間にとっては、これは病的に映るはずだ。
しかし、これは私は、ある種の世代の切実な苦しみな表現に見えた。
また、本書がとんでもなくアッパーな文体で語り続ける内容も、金があるのに自信がなく、満足感のない世代の登場を予見させる、何か哀愁なものを感じた。おそらく、これは若い世代ほど強く感じるものだと思う。要するに生まれた時から効率化しすぎてつらいムードを、共有するための本なのだ。

現代のできる社員の本当の苦悩とは

昔の高収入の社員に支払われた給料の内訳はなんであるかと考えると、それは「信用」「責任」である。つまり、働いていない、体を動かしていない時間の評価が生み出している。

しかし、現代はどうであろうか?
社員は平でも経営に関することに携わることを、当然のように強要され、見えないところで働くことすらできない。何で評価をされているか、それは直接的な売上貢献度と、極端な人間関係の存在だ。
彼ら中間管理職は、サボることも休むことも昔よりしにくい。会議は勝手にスケジュールを操作されてねじ込まれ、無駄な認証のメールが届いたり、部門の売り上げ責任やトラブルの所在をまるまる被されたり、シビアなことがいちいち言語化され、成績化された。
これは昔はなかったことで、おそらく全く新しい役割ではないかと思う。
本書を読むと、この二人(実質的には一人)のこの点での苦しさを目の当たりにできる。

新入社員が真っ先に読むべき本

私が本書を一番に勧めたいと思うのは、就職する前の学生だ。
会社に入る前に、おそらく彼らが抱いている不安は、本書を読めばある程度的中しているのがわかる。だが、入社すると我慢し、忘れるか、もしくは必要以上に苦しんで脱落する。そして、あえて言うならこの本は、後者の「必要以上に苦しんで脱落した若手社員たち」の本である。

本書を読んでどう思って欲しいか?
それは、あなたが、君が入る予定の会社は、その苦しみに対してどうしてくれるのか?とか、その会社に入ってどのくらい自分たちはそれを減らすアクションができるか?とか、そういうことだ。社会の魔物は、一度入ってしまったら、従うしかない。そんな中で、もしかすると本書は、何かのヒントを、新人に渡してくれるかもしれない。

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