暦年齢による採用制度の崩壊、雇用の短期間化、健康の資産化『LIFE SHIFT2: 100年時代の行動戦略』アンドリュー・スコット&リンダ・グラットン

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著者について

著者のリンクドインページから引用

アンドリュー・スコット(1967 – )

ロンドンビジネススクール経済学部教授、前副学部長、オックスフォード大学オール・ソウルズ・カレッジ特別研究員、英国経済政策研究センター特別研究員。

組織経済学のキャリアが先達であるリンダ・グラットンと共著で『LIFE SHIFT』シリーズは世界的なヒットとなり、コロナ後のリモートワークや高齢化社会を的中させ、話題となった。

アマゾン著者ページより引用

リンダ・グラットン (1955年 – ) は、イギリスの組織論学者、 コンサルタント。

ロンドン・ビジネス・スクールの管理経営学教授及び彼女自身の組織行動論上の実績で有名なHot Spots Movementの創業者である。

『LIFE SHIFT』シリーズのプロモーションにおける、スポークスマン的な役割を担っているのは、こちらのリンダ・グラットンである場合が多い。だが、共著の順番ではアンドリュー・スコットの方が毎度上位なので、基本的な理論構成はアンドリュー・スコットだろう。

内容説明と目次

内容説明

新テクノロジー、AI、長寿化、コロナ、リモートワーク、副業……

この変わり続ける世界で、私たちはどう生きるか?
日本人の不安に応える「ライフ・シフト」実践編
シリーズ47万部。待望の最新版!

・なぜ、これまでの生き方の常識が変わるのか?
・なぜ、誰もがライフシフターとなるのか?
・なぜ、社会的開拓者が必要となるのか?
・100年時代と向き合って生きるとはどういうことか?
・AI に負けない、人間らしさとは何か?
・大人の学びと子どもの学びは何が違うのか?
・中年期における人生の移行で気をつけることは?
・世代の違いを乗り越えるためのヒントとは?
・コミュニティへの共感を持つためにできることは?
・政府、教育、企業が変わるべき方向とは?
・挑戦する人の背中を押すメッセージ!

目次

  • アンドリューによる日本語版への序文
  • リンダによる日本語版への序文
  • はじめに
  • 第1部 人間の問題
    第1章 私たちの進歩
    第2章 私たちの開花
  • 第2部 人間の発明
    第3章 物語──自分の人生のストーリーを紡ぐ
    第4章 探索──学習と移行に取り組む
    第5章 関係──深い結びつきをつくり出す
  • 第3部 人間の社会
    第6章 企業の課題
    第7章 教育機関の課題
    第8章 政府の課題
  • おわりに──未来へ向けて前進する
  • 図出典一覧

予測本特有の「しっくりこなさ」がポイント

『LIFE SHIFT』シリーズは、リアルタイムで「なるほど」と思う本ではない

日本では、コロナ禍になってだいぶ遅れて『LIFE SHIFT』シリーズの第一作目『LIFE SHIFT』が売れ始めた。2016年に出版された同書は一部のビジネスパーソンには読まれたが、ヒットというにはほどお遠く、ほとんど知られていなかったが、リバイバルによってベストセラーの仲間入りを果たす。

LIFE SHIFT』は2030年の社会を想定して書かれた予測本としての側面が強い。2030年は高齢化とテクノロジーの進展による『リモートワーク』がキーワードだと既に2015年の段階で推測していた。そのため、コロナショックによってリモートワークが流行った時、盛んに読まれることになった。

その後、『LIFE SHIFT』は続編だけでなく、短縮版やマンガ版が出版されるなど横展開をしていく。この『LIFE SHIFT2: 100年時代の行動戦略』は、オリジナルの第三作目にあたる。

コロナショックを契機に横展開し、関連本だけではなくパクリ本も多く出版された。それらはこの第一作目が予測を的中させたことが大きい。特にコロナショックによって、2030年に起きるとされたリモートワークの隆盛が10年早まった。それゆえにさらにインパクトが大きかったのだ。

全ての国で、平均寿命の伸びを低く見積もっていた:未来予測の難しさ

本書がなぜ高い精度で予測を的中し、コロナ禍のリモートワークであったり、高齢化による職業従事の激変を予測できたのか? 冒頭でそのことが時間をかけて語られている。

その理由を、超暴力的にまとめると“統計を無視して、フィールドワークから予測した”ということが挙げられる。もちろん、統計を全く無視するわけではない。だが、本書は統計を確定的なものとして使うことを一貫してためらいつづけている。

特に、冒頭の第一部では「ほぼ全ての国で“平均寿命”を誤って算出している」と語っている点は興味深い。では、どのような形で精度の高いフィールドワークができたのか?

高齢化のフィールドワークの現場は「日本」

高い精度のフィールドワークの理由に対して、本書を熟読している人は即答できるだろう。その答えは、対象を正確に絞り込んでフィールドワークをしている、ということに限る。

特に『高齢化社会の仕事環境』のメイン会場は、世界一位の高齢化国家の日本である。

海外の書籍であることを疑うくらい、日本では、日本、日本、と、まるで日本が世界であるかの如く、高齢化社会の労働環境に関しては日本が舞台として描かれている。

キーワードは、暦年齢の衰退、雇用の短期化、予想と異なる自動化社会

本書で導き出される結論は以下の3点が主なものだ。

  • 暦年齢以外の採用基準が必要
  • 雇用はどんどん短期化していく
  • 自動化は思ったようには上手くいかない

暦年齢は、高齢化社会で崩壊する

例えば、60歳代は新しい技術を学びたがらない、という人事の常識がある。だが、これは、将来的には考えを変えなければいけなくなるだろうと本書で語られている。

8ヶ国語を話し、プログラム言語を4種類使えるプログラマーがいたとして、どう考えてもそれらのスキルは20〜30歳代で取得するのは難しい。おそらくは60歳代になっているだろう。

また、健康に関しても暦延齢を否定する要素が多くある。

スポーツ選手が体力のピークを30代前後で迎えるものの、普通のサラリーマンよりも寿命が短い傾向にあったり、また祖先に癌で亡くなる人が多いいわゆる癌家系は、暦年齢が採用できない。

平均寿命が徐々に低くなっているアメリカのホワイトカラーと、30年以上世界の平均寿命の1位をとりつづけている日本人は同等の暦年齢で採用できないのも明らかだ。

本書では、この暦年齢型の採用が崩壊する様子が詳細に描かれている。

新技術の誕生は、雇用の短期化を促し、失業者をむしろ減らす

イギリスの産業革命は、例えば機械が人から職を奪うというイメージを生み出した。チャップリンのモダンタイムスなどで描かれた機械に人が翻弄される姿は、現在の私たちにも悪影響を与えている。

映画としては出来がいいが、結果的に間違った機械と人間の関係の固定概念を作ってしまった負の遺産チャップリン『モダンタイムズ』

新技術の発生によって、統計的には以下の工程が証明されているという

  • 既存の産業が衰退したり、消えたりする
  • 新新規の職種が勃興する
  • 業務の効率化で残業が、全体的に低減する
  • 職の流動性が安定化するまで、賃金格差が発生し続ける
  • 最終的に、職業の平等化が進む

本書『LIFE SHIFT2』で描かれる社会は、おそらく2050年から2100年ごろを予測しようとしているが、その環境はさらに今よりもこれらの段階が変化した社会だと言えよう。

そこには複雑で専門的な知識が含まれており、現時点で読むには確かに納得できない部分もあるが、これまで予想を的中させてきた『LIFE SHIFTシリーズ』ことを考えると見逃せない内容だ。

自動化は、予想通りには行かない:人間の能力をさらに明確にする

本書では、トラックの自動運転車の開発を例と出して、自動化がうまく進まないことを示した。

例えば、ガソリンスタンドや車庫入れ、市街地での運転は、最近では自動化運転では不可能であることが証明されつつあるらしい。つまり、国道や高速道路のみでの使用しか、結果的には自動運転には期待できないらしいのである。

これらから、“自動運転車は絶対人が必要”ということを導き出している。トラックのような図体のデカイ車は、特に運転席から人間が消えることは不可能だという。

タクシーであれば、限定的な行き先で遠隔操作が行えるかもしれないが、それ以外の輸送手段では乗り手としての人間はどうやら消えないらしい。

このように、自動化、例えばロボティクスやAIでも、その背後には必ず人間が必要であり、単純労働は減らせるが、職種や専門知識はどんどん増えるという循環が想定される。

本書で語られる未来の自動化産業は、世間で語られているものよりもかなり弱々しいことに、多くの読者は驚くだろう。それが現実的にも的中しそうな感じが、読んでいる私にも感じられた。

Q:どんな人が読むべきか?

A:本書のメインテーマは、人間の可塑性(弾力性)についてであり、そこを読み違えている未来予想が、巷に溢れているという、かなり刺激的な内容である。

ただ、その予測する未来は特定されていない。10年後かもしれないし、100年後かもしれない。人間の技術・労働環境の歴史は、一定の期間というよりは、コロナショックや産業革命によける石油革命のように、事件やアクシデントによる影響の方が大きい。

よって、本書を読むべき人というのは、それくらい長期的かつ弾力的な将来像を、苛立ちなく忍耐強く考え続ける自信がある人ではないかなと私は感じる。

もちろん、誰が読んでも楽しい要素はある。ベストセラーでもあるし、読みやすい。だが、だからと言って誰にでもお勧めできる書籍ではないと思う。

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