ワークショップ本の闇と効能『ずっとやりたかったことを、やりなさい。』を例にとって語ってみる。

オーディオブック

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著者情報

英語版アマゾンオーディブル著者ページより引用

ジュリア・キャメロン(ジュリア・B・キャメロン 1948〜)

シカゴ出身。ジョージタウン大学を卒業後、作家、劇作家、小説家、作曲家、映画製作者など、多くの仕事をこなす。1976年に映画監督として有名なマーティン・スコセッシと結婚するも翌年1977年に離婚。

1992 年に著書『The Artist’s Way(本書:『ずっとやりたかったことを、やりなさい。』の原本)』で知られる。出版されてから30年以上のベストセラーである。

映画では大ヒットシリーズ『マイアミバイス』の脚本家で著名である。1990年代に脚本家としての落ち目の時期を経験するも、プロデュース・監督・脚本を担当した『神の意志(Good Will)』という自主映画でベルリン国際映画祭に入選し、復活を果たした経歴がある。

キャッチコピー・目次

キャッチコピー

毎日の繰り返しに、埋もれた自分。

そろそろ起こしてみませんか?

忘れた夢を取り戻す12週間の旅。

目次

  • 安心感を取り戻す
  • アイデンティティを取り戻す
  • パワーの感覚を取り戻す
  • 本来の自分を取り戻す
  • できるという感覚を取り戻す
  • 豊かさの感覚を取り戻す
  • つながりの感覚を取り戻す
  • 芯の強さを取り戻す
  • 思いやりの心を取り戻す
  • 守られているという感覚を取り戻す
  • 自立の感覚を取り戻す
  • 信じる心を取り戻す

ワークショップ本の闇

本書は、12週間のワークショップを書籍にするというスタイルで編集されている。そのため、いろいろな問題があるといえばある書籍だ。それを以下にまとめてみる。

  • 読んで実践するには最低でも12週間はかかる
  • 本書を読んで、ワークショップを実際する人は1%にも満たない
  • アマゾンなどのレビュー執筆者には、ワークショップ実践者はほぼ皆無
  • ウェブ上の本の評判の信憑性は低い(真の意味で、限りなくゼロ)
  • 外部評価ができない書籍
  • 外部評価ができない書籍は“評価が高い”と言いやすい(否定できない)

総じて言えることは、ワークショップ本は悪い評価を受けにくい、ということである。

ほとんどの作家が“悪く言えない理由”

本書を推奨する岡田斗司夫。彼は類似したワークショップ本をはじめ、さまざまなワークショップ本を出しており、そもそもが大学教授である。またサブスク型の高学セミナーとも言えるオンライン・サロンの運営者でもある。そういう前提について話す。

本書は、岡田斗司夫が推薦して、ヒットをしたという流れがある。だが、ここには隠れた問題がある。

ワークショップ本は、メリットが大きい

本書を推奨している作家の中で目立つのは岡田斗司夫だが、彼はこの本以前より同様のワークショップ本を多く出しており、自身もこのスタイルを非常に良く用いる作家だ。岡田のようなタイプを含め、本書を推奨している作家は、芸術作品を売るタイプの人間ではないことが多い。

簡単にいうと、岡田斗司夫は本書のターゲットである脚本家でも映画監督でも、現代美術家でもない。

つまり、評価すべき人間ではないし、むしろ利害関係者なのだ。

ワークショップ本の闇:初心者でも権威者に

著者が、ワークショップ本を出すことで得られるメリットは大きい。

それは本の売上とは別に、実際に本人が行うワークショップを1万円〜40万円などで開催できるので、そっちでも利益を上げることができるからだ。むしろ、その利益の方が大きい。

また、本の出来が弁証法的に穴がない限り、本人のその道での経験は問われない。つまり、ワークショップ本は初心者でも書けてしまう類のジャンルなのだ。

これは大きなメリットだと言える。本出しただけで、権威者だと周りが認めてしまう風潮もある。

特に不動産業界は、大損していてもこの手の本を出す「なんちゃって不動産投資家」が多い。そういう本を出して、すぐにセミナーを開いて“自由人を目指そう”という人種を、通称「キラキラ大家」という。

現に、日本人はこの本の著者のジュリア・キャメロンの作品を見たことがないし、聞いたことがない。海外の映画情報サイトを見ても、確かに彼女の名前は見当たらない。

むしろ、本書を書いた無名の作家としての記述が目立つくらいだ。

そういう意味で、世界的な「キラキラ大家」的な芸術家と言えなくもない。

不動産書籍のほぼ90パーセントは自費出版である。これが何を言いするか感のいい人はわかるだろう。不動産投資の世界では逆にこのワークショップ的な本の方が主流である。出版後、ほぼ全ての著者は、高額セミナーやワークショップを執り行う。全ての著者がそうではないが、ほとんど著者は高額セミナーをやっていると言える業界だ。

ワークショップ本へのスタンス

少し過剰な疑い方だ、このくらいは疑って読むのが実は、ワークショップ本にはふさわしい。

このような、事前にある程度の前知識を持たなければ、この手のワークショップ本の目利きはできないと言える。全ていい本、否定できない本ということになりかねない。

特に本書は、12週間のプログラムという非常に長期間を想定している。この長い期間をどう考えるかがポイントだ。よって、読む前にある程度の考えを持って読むべき本だと言える。

グログ主の勝手なまとめ:ここから本筋(実は評価は低くない)

創造性回復を目的とした本とは

ジュリア・キャメロンは、その作家としての人生の中で幾度として経済的な危機を経験して、その中で自分の活動を再構成し、何度もモデルチェンジをおこなってきた。その結果が、彼女の経歴の多彩さであり、本業である映画やテレビの脚本家からかけ離れた作曲家としての活動などに現れている。

本書は、そこで経験した「周囲からの無視・批判的な意見」を、乗り越えるための様々なメソッドを集約したものである。結果的に本書は、挫折のリスクが高いアメリカの若年層のアーティストを中心に、30年以上にわたってロングヒットとなり、国民的なベストセラーとなった。

そんな本書で語られるのは主に「モーニング・ページ」「アーティスト・デート」という二つのワークショップメソッドについてだ。以下にそれをまとめる。

モーニング・ページ(冒頭でのみ解説)→理性を抑え込む

毎朝、1時間弱で自分の今の状態を3ページの白紙に書くというモノ。

いわゆる日記と違うのは、出来事を書くのではなく、自分に問いかけるスタイルで書くことが推奨されている点だろう。そのため、夢の実現が遅れれば、そのことに影響されていく。

これによって何が起こるかというと、自分の「やらない理由」「やれない意識」「逃げの姿勢」を何度も何度も書くことになる。いわゆる理性のパターンを視覚化することになる。

これにより、自分の創造性を押しつぶす要因を知り、予測できるようになっていく。これによって、アーティストになろうとする自分を否定する諸問題を対処していくのが本書の狙いだ。

こちらは冒頭でのみ解説されている。

アーティスト・デート(全編を通して描かれている)→創造性を取り戻す

失われた創造性を取り戻すためにやるべきことは少なくない。過去の自分を否定することでもあるし、想像できない未来を描くことでもあり、時には経済的な不安も社会的な信用の失墜も含まれる。

その中で、自分の創造性を取り戻しながらそれを温存していくには、定期的なアクションが求められる。本書ではこのアーティスト・デートを週に一度とり行うことを推奨している。

ドリームキラーを殺し、一度否定した自分を回復する。非常識さがポイント

12週間のプログラムのうち、このアーティスト・デートに触れる時間が最も長い。

また、それは読んでていて辛くもなるし、恥ずかしくもなるし、まあまあ嫌な気分にもなる。何よりも面倒なスタイルのワークショップをさせられる羽目になる。

ただし、ここが本書の他との大きく違う点である。

読むだけなら、初見では内容を理解し切るのは難しい

こんなブログを書いている私だが、残念ながら12週間のワークショップスタイルではやっていない。だから、本書の意図を十分理解しているとは言い難いし、逆に本書のダメなところも分かりきってはいないだろう。先述べたが、この捉えどころのなさがワークショップ本の不気味な部分だ。

とは言え、ブログを書くために2回通読している。

それによって理解できているのは、一読目ではほとんどできていなかったという点だ。

私は、書籍を一年で400冊程度読むし、理解度も良い方だとは思っているが、それでも本書の背景を読み込む難しさがあった。ただ、それは結末を知って読むことである程度解消できる。

結論:落ち込んだ時の保険として考えると、かなり良い本

実は、私自身は、作家活動をやめたり、傷つけられた、という経験があまりない。前提として、本書を読むべき人間ではないのかもしれない。

だが、作った作品を酷評されたり、自分の下手さに辟易してもうやめようかなと思ったことは多々ある。そんな思考に陥った時に、本書には役立つ内容がかなり多く書かれている気がしている。

そういう意味で、作家を目指していて落ち込んだ時に読む本としては、結構おすすめである。ただ、ワークショップをするとまた全然違う効果があるようにおもえ、その辺は謎な部分がある。

Q:どんな人が読むべきか?

作家活動をやっている人で、生き残っている人は私の知る限り、自分の作家活動に疑いを持っていたり、それを否定されることで傷つく人はあまりいない感じがする。

とは言え、それでもある一定の人間は弱い精神だろうし、何よりも結果が出にくい最初のうちは、潰れやすいのは間違いない事実だと思う。そういうときに、読み物として読むだけでもある程度の役には立つかもしれない。だが、ワークショップ本としては未検証だ。

むしろ、ワークショップ本としてはかなり忍耐強い人間以外、実行しきれない可能性の方が高いような気もしないわけではない。先にも述べたが、この点を加味してから手を出す方がいいだろう。

一番良くないのは、この手の本を「世界的なアーティストが読んでいるから」という感覚で手を出すことだと思う。ワークショップ本は、場合によってはその人の作家人生にとどめを刺すこともあるし、後退させる可能性もないわけではないからだ。

また、この本には自分を過剰に見つめるという行為ついてくる。その行為は、いろいろな効能がある。ここでは説明できないが、自分を見つめる、と言ってやめていく人を多く見てきたのもある。

というわけで、むしろ私は単なる読み物として気楽に一読することをお勧めしたい。

こちらの書籍はオーディオブックで読むことができます。

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