事故物件サイト「大島てる」の悪用。借地権の購入・投資、賃貸保証会社など身近なリスクを扱う『正直不動産(13)』

書評

著者紹介

夏原武(漫画原作者 1959〜)

19歳の時に桜美林大学文学部中国文学科を1年生の途中で中退し、東京の下町にある的屋系の暴力団に加入して約10年間ノミ屋、債権回収、地上げなどを行う。

バブル経済時代の月収は600万円から700万円。のちにビデオ専門雑誌編集者を経てフリーライターとなり、裏社会やアウトローに関した題材を得意として『別冊宝島』などで執筆した。
2003年から『週刊ヤングサンデー』で、詐欺を主題とする漫画『クロサギ』の原案を担当。2007年に小学館漫画賞一般向け部門を受賞。詐欺や闇ビジネスに関する単著も多く執筆している。

大谷アキラ(1982〜)
日本の漫画家。山梨県出身。2004年、22歳の時にまんがカレッジ入選。以後、週間少年サンデーやビックコミックを中心に、作品を発表している。『LOST+BRAIN』『ツール!』『機動戦士ガンダム FAR EAST JAPAN』『ニッペン!』『正直不動産』。

取扱項目

  • 賃貸保証会社
  • 大規模開発
  • 底地投資(借地権の購入も関係する)
  • 事故物件サイト(大島てるの不動産業者の使い方)
  • 原野商法

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概要(ブログ著者によるまとめ)

借地権の売れ残りが最後の行き先を求めている

私が今回注目したのは「底地投資(借地権を取り扱う)」のパートだ。

現在、日本の主要都市では不動産バブルが発生しており、目立つところではマンションの高騰がニュースとして一般的に伝わっている。これに付随して、戸建の販売も好調で在庫切れた続出している。

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これには理由があって、コロナ禍でじゃぶじゃぶに溢れた助成金・持続化給付金という事業の持続のための支援金が、不動産購入に向かっているというのもある。政府からの貸付利率があったとしても、大概の場合、不動産投資の方がその利回りが上回るので当然の帰結だ。

これらの持続化給付金の不正受給が一部問題になっているが、実際はほとんどバレておらず、また正規の手続きをとる手法だけでも、受給者は多大なメリットを得られる。その中に、不動産投資や住宅購入、事業地の買収などがある。

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山手の戸建・事業地の売れ残りは全て「借地」

そんな中で、実に見事なタイミングで『正直不動産(13)』では、借地権を扱った。これ以上ないタイミングだと思う。

さらにすごいのは「借地権」に関する諸々の業務を設定する側にあたる「底地権取得者」を取り扱ったことだろう。しかも、IT会社社長という、いかにも不動産に無知で荒くれている人物が登場するため、状況の複雑さを説明しやすい。

首都圏の不動産業者は、顧客を騙して「借地権」を売り込んでいる

結論を言うと、借地権は、本来プロが取引するものだ。それが『正直不動産(13)』には書いてある。この借地権の困難さの難しさを、ちょっとご都合主義的なストーリーだが、実に明解描いているので、ぜひ読んでもらいたいと思った。

事故物件サイト『大島てる』の悪用

本書ではたびたび巻末のインタビューで登場した事故物件サイト『大島てる』と同名での社長の大島てる氏だが、ついに漫画内でも登場することとなった。

その内容は、モロに前号の『正直不動産(12)』の巻末インタビューで話題になった、同サイトの業者による悪用である。

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賃貸での悪用の他にも……

内容は詳しくは書かないが、今回の悪用例はあくまで賃貸物件の話である。

よって金額も少なく、その分、被害も大きくはない。だが、実際は、大島てるの一番の被害は、売買物件での被害である。特に首都圏でマンションを持っている人は要注意だ。

本書では『大島てる』悪用から身を守る具体的な手法も記載されている。

保証会社と老人の賃貸契約の未来

その他に注目すべきは、賃貸契約の裏で近年暗躍している保証会社の問題だろう。

関連記事:保証会社が立て替えているから…家賃滞納を続けた借主の末路

ただし、今回はこの件に関してはあくまで借主目線で描かれるにとどまっている。それでも、扱っているのは、老人と保証会社の契約トラブルに起因したものであるため、興味深い内容だ。

Q:どんな人が読むべきか?

A:今年から来年にかけて家を購入予定の人。

なぜなら、現在私の周りの友人知人で家を買おうとしている人たちから、東京都内の目黒や山手近郊がほぼ“借地権物件しかない”(戸建限定)という現実に直面しているからだ。

このまま、資材不足やインフレ、職人不足の状況が続けば、全国的に同様な展開、つまり売り物が借地しかないと言う状況になると思う。その時に、業者は当然、騙しにかかってくる。

給湯器などは半年先まで入荷がない

資材高・設備費高騰の一例として、現在、給湯器不足が問題になっている。

関連記事:弊社製品の納期遅延に関するお詫びとご案内

この「給湯器」がないだけで、マンションの建設開始が1〜2年遅れている物件は都内でもザラだ。その間に、新築マンションの契約を取り消して、一部の消費者が借地権の戸建に流れている。

私が聞く限り、通常の時期に販売されることないような、かなり歪で訳ありの借地権が今、どんどん無知な素人に処理されており、危険な状況だという。

本書を読めば、借地がいかに難しい法律問題を孕んでいるのかがわかる。

思い当たる人は、この『正直不動産(13)』だけでいいので、読んでもらいたい。

Q:大島てるを題材にした話の内容は読む価値はあるか

A:かなりあると思う。

特に、受験などで東京に子供を一人暮らしさせる親世代は必須だと思う。
なぜなら、孤独死や事故死は、東京などの大都市にある程度クラスと、身近であることがわかり、抵抗もなくなる。一番騙されているのは、どう考えても受験生の賃貸契約だ。

事故物件のだましは、ワンルームと1DKが圧倒的に多い

そもそもが孤独死や事故死は、独居しているケースが多い。

そして、保証会社の話とも被るが、現在、あまりに余っている狭いワンルームマンションなどは、老人も苦労せずに契約できるくらい審査も甘い。

そもそも、これらの狭いワンルームマンションは誰のために作られたのか?これは、当然、受験生である。今現在、受験生の賃貸契約の周辺にはこのようなトラブル要素が激増しているのだ。

賃貸契約のトラブルはコラムも必読

漫画だけだと、フォローしきれていないところを本シリーズは全般的に、巻末のコラムやインタビューで保管している。こちらは、書籍版だけではなく電子版にも掲載している。

ぜひ、受験生の親御さんたちには、一読してもらいたい内容だ。

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