億万長者(ミリオネア)という新しい中産階級の誕生。アメリカ人は消える年金とどう戦ったのか『となりの億万長者』『その後のとなりの億万長者』

オーディオブック

続編の『その後のとなりの億万長者』は、アマゾンオーディブルで読むことができます。

『となりの億万長者』の著者について

トマス・J・スタンリー(Thomas J. Stanley 1944〜2015)

アメリカにおける富裕層マーケティングの第一人者。
ジョージア州立大学の教授職を経て、ニューヨーク州立大学オルバニー校マーケティング学部の教授となり、1973年にアメリカ全土の億万長者を対象とした初の大規模調査を実施。
その結果を書籍化した『となりの億万長者(The Millionaire Next Door)』は、1998年に出版され、アメリカ国内で500万部、全世界では1000万部を超える大ベストセラーとなった。
だが、晩年は、投資を不純とする保守的なアメリカ人によって『となりの億万長者』に書かれた内容への反論、批判にさらされ続けた。2015年に飲酒運転事故に巻き込まれ、死去。

『その後のとなりの億万長者』の著者について

サラ・スタンリー ファラー(おそらく1970年代前半生まれ)

ジョージア大学大学院で産業心理学の博士号を取得。その後、学者と並行して企業の経営者となり、活動を幅を広げていく。2015年には、父であるトマス・J・スタンリーが事故死を遂げた後、父の生前のリサーチ資料をまとめ、さらには『となりの億万長者』へ向けられた批判を検証する独自のリサーチを行い『その後のとなりの億万長者』の執筆を行った。

『となりの億万長者』の目次

  • 1 となりの億万長者を紹介しよう
  • 2 検約、検約、検約
  • 3 時間、エネルギー、金
  • 4 車であなたの価値が決まるわけではない
  • 5 親の経済的援助
  • 6 男女平等・家庭版
  • 7 ビジネス・チャンスを見つけよう
  • 8 職業:億万長者対遺産相続人

『その後のとなりの億万長者』の目次

  • 第1章 となりの億万長者は健在なり
  • 第2章 神話を無視する
  • 第3章 富に対する影響
  • 第4章 消費する自由
  • 第5章 富を築くための力
  • 第6章 仕事に就く
  • 第7章 投資の方法

ブログ主の勝手なまとめ

文字通りの億万長者ではなく、アメリカの中産階級について書かれた本

私は本作シリーズ『となりの億万長者』『その後のとなりの億万長者』とを読みながら、なぜ、一作目の著者であり二作目の著者の父であるジョセフが批判の的になったかを考えていた。

そしてわかったのだ。この書籍は、みんな(アメリカ人)が描く富豪について書いた本ではなく、倹約延長としての将来の不安を解決した人、について書かれだけの本であるということだ。

アメリカの読者の中には「この本を読めば、南の島でヨットに乗り、若い女性たちとハーレムを作って暮らせる」という感じで、浅はかな感じで読んだものも多かったのではないだろうか?

だとしたら、ある意味批判されても当然ということになる。

しかし、本書は実に深い洞察が書かれた本でもあり、アメリカ人のかなりの割合に対して、経済的なインパクトを与えたのではないかと感じた。日本の両学長や厚切りジェイソンなどとは比較にならない、ある種のアメリカ人の切実な感情を、どこかで掴んだのではないかとも感じた。

アメリカは年金制度が1970年代に破滅した

父ジョセフ・スタンリーの『となりの億万長者』のリサーチは1975年から始まっている。この時期がとても重要だ。なぜなら、当時のアメリカでは社会制度が大きく崩壊していたのだ。

それまでの1950年代くらいまでのアメリカは強くて盤石な社会制度があったし、極度の社会不安を抱くような今のアメリカのスタンスもない。安定していたのだ。

だが、その後ハイパーインフレが起きた。その原因は、長期わたる泥沼化したベトナム戦争であり、ソ連との不毛な軍拡競争(月面着陸などの宇宙開発も含む)である。これらの収支が立たず、赤字にしかならない血だらけの活動が、この本のお膳立てしたことになる。

その前提をこれから話していく。これらのことは、本には書かれていない。

『となりの億万長者』&『その後のとなりの億万長者』を読む上で必要なこと

その前提として知っておきたいのは、何度も言うが、アメリカの年金制度は1970年代に死んだ、ということである。映画『ランボー』でも描かれるように、ベトナム戦争後は、それまで潤沢だった退職軍人の慰労年金も激減傾向になり退職軍人には酷い労働環境と晩年が伴うのはこの頃から始まる。

では、なぜアメリカの社会制度が死んだのか?

それは、ニクソンショックなどにも表れているように、アメリカはベトナム戦争の舵切り方を間違え、その後、インフレが止まらず、それがハイパーインフレとなった。

それよって国や公共機関、場合によっては企業が定額で支援金を支払い続けるというモデルが、一切成立しなくなったからである。

関連記事:ボルカー時代のFRB~インフレをどう退治し株価はどう反応したか

インフレ退治後に、資産運用に目覚めたアメリカ人

例えば、月に20万円の年金があるとして、物価の上昇でコカコーラが2年後に150円から6,000円になるとする。牛丼はもちろんそれより高く、10,000円になっている。そうなると年金で食べられる牛丼の数は激減しており、暮らせない。これがハイパーインフレである。

このようなインフレが1970年代より続き、1980年代にはいってようやくアメリカFRBのポール・ボルカーという人物が、インフレを止めた。

そして、ポール・ボルカーという英雄がインフレを止めた時には、アメリカの全ての定額支給制度が全滅していたのだ年金だけではない、交通費や福利厚生費など全てだ。それゆえに、アメリカはいまだに交通費という制度がなく、アメリカが会計・税制度に介入して一度は日本も交通費を失いかけた。

コロナ後の現在も実は、アメリカの圧力で日本の交通費制度は攻撃されている。

関連記事:テレワークで通勤手当がなくなった!–コロナ禍の定期券や交通費の疑問にお答え

本シリーズである『となりの億万長者』『その後のとなりの億万長者』は、そのアメリカ人が全て暗黙了解と認識している条件下で読むべき本である。

要するに、年金制度の消滅の裏で起きた、中産階級たちの戦いの記録と言っていい。

『となりの億万長者』シリーズに登場する富豪の資産は、20億円以下

登場する億万長者のほとんどは、2〜8億円程度(100〜800万ドル)

一度読んでから、本をペラペラとめくってそれぞれ見比べてほしい。そして数字を追ってほしい。

『となりの億万長者』『その後のとなりの億万長者』に登場する億万長者たちは、実は高所得者ではない億万長者ギリギリにである人がほとんどで、それでも高齢である。高齢がゆえに、自分の資産を切り崩しても余裕があることを、端々で感謝している記述が目立つ

しかも、本書シリーズは倹約本でもあり、贅沢までいかなくとも、ちょっとした出費や、小さなプレゼント程度の記述も存在していない。それどころか、かなり切り詰めた描写ばかりだ。誰一人として、ちょっとした贅沢をした、という記述すら存在しない。

これが何を意味するのかを、例えばこの本を紹介しているリベ大の両学長や、中田敦彦はぜんぜん説明していない。どう考えても、年金を自前で作り上げた人間たちの安堵の声を集めた本である。

年収600万円〜800万円の正社員が主な登場人物

『となりの億万長者』に関して言えば、時々、本物の大富豪的な人物も登場しないわけでもない。でも令の如く彼らは節約に命をかけており、金の使い所も心得ている。そういう例外的な存在としてしか描かれない。例えば、ウォーレン・バフェットのような人物だといえる。

『その後のとなりの億万長者』に関しては、登場人物のほぼ全てが年収600万円程度のサラリーマンであり、中には年収が一度も6桁に届かなかったシングルマザーなどもいる。

また、遺産相続に関してはかなり強烈に批判しているのも、本シリーズの特徴である。

PCの登場で実質副業が解禁になり、ネット証券によって投資が一般的になったアメリカの世相を反映した『その後のとなりの億万長者』では、多くの億万長者が複数の仕事をしている描写がある。

旧作の『となりの億万長者』では、その分、実現性は少なかったが、『その後のとなりの億万長者』は、億万長者は特別なヘマさえしなければ、案外誰にでもなれるような書き方だ。

私たち日本人は、これらの背景を注意して本書シリーズを読み進めるべきなのだ。

最大の読みどころ:『その後のとなりの億万長者』 第7章 投資の方法

『となりの億万長者』『その後のとなりの億万長者』シリーズの最大の特徴は、実際の億万長者にあらゆる手段を使って連絡し、実際にインタビューしたことである。その前提で、あえて最も読み応えのあった部分を抜粋するとなると、『その後のとなりの億万長者』 第7章 投資の方法となる。

投資に対するリスクの姿勢:みんなが泣き叫んでいる時に平然と暴落株を買える人

『その後のとなりの億万長者』 第7章 投資の方法では、アメリカの億万長者の中で多数派の投資行動として、みんなが泣き叫んでいる時に平然と暴落株を買う、という行動を書いている。

一見、めちゃくちゃ少数派に見えるこのアクションが、実はアメリカの億万長者たちのメジャーなアクションだということに、驚きを覚える。

レバナスやブル、ベアETFのような商品を本書でははっきりと否定している。

そして推奨するのは、高配当株であった。値動きの緩やかな高配当株を、市場が暴落している時に買うだけで、年利の20〜30%のキャピタルゲインを得られ、また3〜5%のインカムゲインつまり配当を得られるということだ。

投資のジャンルでは超マイナーな逆張りの思想を、ここまで大々的に本の大きなテーマとして扱うのは、実に珍しい。

アメリカでは、金持ちほど高配当株を買うというのをCNBCの名物投資番組『マッドマネー』のジムクレイマーが語っていたが、どうやら今でもそうだというのが証明されたようだ。

Q:どんな人が読むべきか?

A:さまざまな投資初心者本、例えばリベ大の両学長の本や厚切りジェイソンの本を読んでも、納得できなかったり、怪しいと思った人向けの本だと思う。

厚切りジェイソンと両学長は、おそらく、このアンケート結果で作られた統計的な事実を元にした『となりの億万長者』『その後のとなりの億万長者』シリーズの存在がなければ、安心して自分達の考えを世に出せなかったと思う。

『となりの億万長者』『その後のとなりの億万長者』は、そんな“自分達の投資方法や考え方”は、「本当に世間的に正しいか」「人に勧めていいものなのか」という、小金持ちたちの実はほとんどが抱えている不安を、横の連帯で実証した本だといえる。

リベ大の両学長と厚切りジェイソンのエビデンスとして、使える。そんな本だといえる。

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