なぜ日本のリーダーは老人天国なのか?日本人の変わりにくい性質を研究『タテ社会の人間関係』中根 千枝

オーディオブック

著者紹介

中根 千枝(1926年(大正15年)11月30日 – )は、日本の社会人類学者。専門はインド・チベット・日本の社会組織。東京大学名誉教授。イギリス人類学民族学連合名誉会員、国際人類学民族学連合名誉会員など。1953年以降、インド、イギリス、イタリア、アメリカで研究を積む。

本書を読むべき人

  • 日本人なのに肝心な日本のしきたりについていけない人
  • 会社の人事や会議で、空気を読めなかった、という経験のある人
  • 日本人のことがよくわからない外国人
  • 海外進出に失敗した人や企業、集団に関係する人

日本人を研究するために世界標準をあえて捨てる

著者は、海外のさまざまなアカデミックの場を経験することによって、日本人の特性をどのように適宜し、書いていくかを考えた。だが、どの外国の学問スタイルも日本人を形容するのに合わない。そう思いつづけたのちに、いわゆる世界標準の社会動態学を捨てることを決意した。

日本の特徴 その1 集団=資格

例えば、兄弟よりも重要になる妻・夫という存在を重視する日本社会。これは、生まれ持った関係である兄妹よりも、ある種の選別を経た婚姻関係を重視するという考え方だ。根拠はないらしい。日本でいう家族とは、兄妹ではなく、この婚姻関係ベースにしたものをさすことが多い。
この点が、著者がいう集団=資格というゆえんである。

これがどういう風に作用するかというと、著者が例に出すのは、嫁姑問題だ。日本の嫁姑問題は、家の中で解決しなければいけない、ということに現れる。インド人や中国人は、どうやら嫁姑問題で、イジイジした展開はないらしい。欧米白人も、そもそも親が子供に関与し続けるのを嫌う。
日本人は、外で大声で喧嘩をし合ったり、兄弟や友人に助けを求めたりはしない。日本では、あくまでこの嫁姑問題を解決するのは、嫁自身か、あるいは嫁と夫だという考えは確かにある。
また、企業内の問題を日本人は「お家騒動」と言ったりする。「お家騒動」というのは、外部の人間も立ち入れないという意味でもあり、また平社員のような「資格のない」人間は口を挟むべきではない、という意味とも受け取れる。「内」「外」の関係だが、これも同様の行動様式である。

この集団=資格が「⇄」みたいな感じで、第一のタテ社会とされる

日本の特徴 その2 範囲=場

日本でいつまでたっても、転職が浸透しない理由は、日本での能力計測が、その人を長く知る人によってなされるからだという。

それはどんなことかというと、何かの基準があって人間を評価するのではなく「その人のネットワークの質」や「極度に限定された状況での適応性」を評価する、らしい。

これは、二つ以上の組織に所属していたりすると、全く役に立たない。
そして、この二つ以上の組織に常に属するような労働をしているのが、アメリカや中国、インドやヨーロッパということになり、ここが日本人の海外進出のネックとなる。

この複数組織で働けない性質が、第二のタテ社会だというわけである。

この第一と第二のタテ社会が新卒主義、終身雇用主義に直結

文章は古臭くて読みにくいが、論理としてはこの第一と第二のタテ社会は驚くほど簡素でわかりやすい。だが、著者はこれらを見下しつつも、バカにしていない。そこも本書の面白さだ。

タテ社会は「平等自由性」

著者は、このタテ社会が日本の独自の能力の引き出し方を成立させていると語る。
日本社会では、やればできるあいつができたらから俺にできないわけがない、という考えが、なぜか深く浸透しているという著者はいう。他の国では、こういう考え方をそもそもしないらしい。

この日本人の「やればできる」「あいつにできたら俺にできる」は、人間の差別性を見えなくしており、時々なんだかよくわからない非効率的な形での底上げを達成している、とのこと。

タテ社会のキーワード「絆(きずな)」

日本人の社会構造は、教育のあるもの、富を持つもの、能力のあるもの、の本来の差別を無視し、この「集団」「場」のタテ社会構造の中における感情的な実力主義をベースとしている。簡単にいうと、目の前にあるものを限定して、無理矢理、平等と自由を信じ込む、という社会らしい。

この力がひとたび、集団が危機的状況に追い込まれると変な保守作用を生み出す。もっと言うと、目に見えない、よくわからない、気合的な人の結びつきを生み出す。これを著者は日本人の「絆(きずな)」病と呼んでいる。こうして1960年に書かれた予言が、東日本大震災が起きたときに起きた『絆ブーム』(ソーシャルアプリのアイコンやTシャツなどとして大流行)として、びちっと当てはまってしまったことは、到底笑えない。

タテ社会は多方向性がないので、大勢が横並びしやすい

このタテ社会の結末して、外の社会を否定する。つまり、横の繋がりが薄い、知らないものをすぐ否定する、ということを引き起こす。この顛末として、例えば、どのテレビチャンネルを見ても、似通ったものができやすい。これを著者は、ワンセット主義とよんでいる。

ワンセット主義は、特定の分野を練磨するのには向いているが、最終的には簡単に、過当競争を生み出しやすく、例えばペットボトル飲料はどの会社も一律150円など、みたいなよくわからないけど鉄壁な共通ルールを生み出してしまうらしい。

著者はこのワンセット主義の悪弊として、活躍する他者の評価をねじ曲げる性質があるという。リサーチしてみると、日本で世襲や既得権益と評されるものの多くが、実は一世代で獲得した評価であるということを、後で知って、バカをみるという事象が多い。勘違い国民性だ。

絆(きずな)を失うと、すぐ組織崩壊する日本人

カリスマ経営者などが亡くなったり、不在になることで、組織崩壊しやすいのもタテ社会の特徴である。トップの交代が下手なのである。また、トップがいなくなると「絆」も薄れやすく、知らないうちに勝手に、組織崩壊していくのも日本人特有らしい。

横のつながりを作るには「派閥」しかない

絆(きずな)は、論理的や効率性を否定する、感情的なつながりである。それゆえに、冷静な判断ができず、多様な視点が生まれやすいトピックで、意見集約が難しい。そんな問題を解消する方法として、日本人が生み出したのが「派閥」だという。
「派閥」は、最初から意見の違う集団同士の、方向性を共有する、という組織の前提がある

日本のリーダー界は老人天国

この結果、日本でリーダーに求められるものは、あまり能力が高くない、派閥の空気が読める、長い間人間関係を構築した人、となる。簡単にいうと、部下が、怠けようとすればとことん怠けることができるて、頑張ってやろうとすれば頑張りを評価できる妙な余白を持っている人間が、親分だということになる。

以上が、本書で語られている日本人の動態である。

とってもよく、理解されてて、悔しいが何も変わっていないのがわかる。

タイトルとURLをコピーしました