男性への恐怖を描いたマンガ表現を分析。『後輩♀は男性恐怖症、そして俺は女装男子♂』梔子まい『男性恐怖症だった私がAV女優になるまでの話』野々原なずな

映画制作

男性恐怖症とは

男性恐怖症(だんせいきょうふしょう)とは、恐怖症のひとつ。個人差はあるが、男性に触れられると強い不安感に駆られたり、男性と話すとひどく赤面したり、男性と一緒にいることに耐えられないといった病的な心理。中には男性が近づいてきただけで不安を感じる人もいる。

ウィキペディアより引用

上記の通り、通常は女性に見られる現象である。

「レイプの被害に遭った」「父親(もしくは、兄弟)から虐待を受けた経験があった」「子供時代に男の子からいじめを受けた」といった経験を持つ人が、男性に対するトラウマとして表れる心理であることが多い。ただ、恋愛にあまり興味がなかったり、男性との付き合い(異性愛)に価値をおかない女性が、男性恐怖症と決めつけられてしまうこともあるようだ。

一般的には女性の症例が多いが、男性の事例も存在すると言われている。

原因は、体力さと性欲。老年になると弱まっていく

私は今まで数人のこう言った女性を目にしてきた経験がある。だが、まだまだ認知度も低く、処方性が存在しないせいか、正式な病気としての認定をおそらく受けていないものだろう。

感覚としては、多くは女性と男性の肉体さ、筋力、骨格の差が影響し、男性の性欲が根源として存在しているような気がする。しかし、とても評価が難しい現象である。

なぜ、興味を持ち、分析したいと思ったのか?

顕在化している母数が膨大:眠っている市場

単純な話だが、ジェンダーギャップの問題として母数が多そうだという点が魅力だった。

興味を持ったのは私が結婚する前に付き合った女性の中に、2名ほど男性恐怖症の女性がいたことが原因だった。だが、それが男性恐怖症なるものであることに気がつくまでだいぶ時間がかかった。

それに、その2名の男性恐怖症の女性の問題の原因、というか、特性を鑑みるに、もしかするとこれは、日本人女性の多くが抱えている問題ではないのか? とも感じるようになった。

体や精神に問題がなくても、男性恐怖症に関連した行動を日本人女性は集団で結託して行うケースが少なくない。その最たるものが、女子会であったり、男子禁制のスポーツクラブだったりする。

外国では、この手の気配が日本ほど強くは感じられないのも気になった。

演出方法を見たい:具体的な目印、アクションが少ない。映像化が難しい

私は映画監督をしており、映画だけではなく、日々小説や現代美術を含む多くの作品に触れている。それは一般人の30倍くらいだと思う。

だが、驚くほどこの“男性への恐怖”にコミットした著作や作品が少ないのが現状だ。

派手なアクションがなければ、メジャーな恐怖症として世間に浸透しにくい

女性にとってはメジャーな症状である可能性が高い“男性への恐怖”だが、これは男性にとっては気付きようが無いし(避けられるので目に入らない)、実際、内面の問題なので目印もなく、アクションも判別しにくい。

たとえば「高所恐怖症」自体は、立ちすくみとかくらいしか症状はないが、それを画的に表現するときに、タワマンとか東京タワー、世界遺産の大自然のガケなどを使える。

こういうものによって、情報というのは拡散・頒布していくのだが ”男性恐怖症” にはその側面がなかなか見つけられない。見つかりそうで、見つからないと言った方がいいかもしれないが。

また、今の日本で産業の基盤を握っている男性が“男性恐怖症”で商売をしたがらないというのも確かにあると思う。多くの作品がボーイミーツガールの形式に頼っており、そこにいけないのも問題だ。

その点で、言い方に問題があるかもしれないが、「潜在顧客があるが、売る商品ができにくい」ということをうすうす感じていた。だが、それは私にとってチャンスでもある。どうにかして、表現としての壁を超える作品を作るきっかけを見つけたい。

そう思い、私はある時から「男性恐怖症を取り扱ったビジュアル作品」を探して分析するようになる。

以下、作品ごとの解説をしていきたいと思う。

『男性恐怖症だった私がAV女優になるまでの話』野々原なずな

実の父や兄の性的暴力(優しく触るがメインだが)を、世に出した凄い作品

このマンガは、私が「男性恐怖症」のことについて考えるきっかけになった作品で、一番初めに購入して読んだ。野々原なずなさんは、実際にAVに出演しているマンガ家だ。

この作品では、自分の“家族から受けた実際のアクション”を緻密に描く手法で、ことの真相に迫っている。具体的には、野々原さんと実際の父と兄との関係がそれになる。

著者の野々原なずなの情報

1997年生まれ。2017〜2020年まではAV女優。2021年〜は漫画家。

小中学生時代、おもにイラストを描き上げるニコ生配信者として活動。中学時代より胸が大きくなり、猫背の原因ともなったことで高校卒業までコンプレックスとして過ごす。胸を隠すようにダボダボの服を着ていたが、スマホで胸のきれいな女性を見たときに『すごい』と思い、引っ込み思案な性格を直したいとアダルトビデオ出演を決意。

  • 2020年4月9日、自身初の商業漫画単行本を発売。
  • 2020年4月28日、契約解除による事務所退所を発表。AV女優業を引退。
  • 2020年6月19日、講談社・ミスiD2021のファイナリスト進出。
  • 2021年11月よりVtuber・野乃のはらとして活動開始。同年12月17日に結婚を発表。
  • 2022年2月11日、入籍を発表。

野々原さんの画像はこちら。

クセのある絵柄だが、描写はリアルで緻密

このマンガ『男性恐怖症だった私がAV女優になるまでの話』には、野々原さんが実際、男性恐怖症になる原因が具体的に書かれており、多くの男性はこれによって“なぜ男性恐怖症が存在するのか?”をほぼ100%理解できると思う。

逆にいうと、本書を読むことで、男性がのほほんと、本能のままに振る舞えば、男性恐怖症になる女性をかなり高い確率で周囲に生み出すのでは無いか、とさえ感じた。

欠点(1):出版スピードが遅い。ストーリー展開が無い

弱点は、2020年の上半期に上梓されているのに、未だに次の号が出ていないことだろう。

もしかするとこの1冊目で、やりたいことを全てやりきっているのかもしれない。

本書の中で、このマンガを書くことを家族に反対された(父親や兄の性的な犯罪を非常に緻密に書いている)というのも、これ以上話を展開させるのが難しい要素になっているのかもしれない。

欠点(2):内面の告白と記憶の物語で構成。具体的なアクションに置き換えられない

これは作品の欠陥では無いが、本作を読むことで“男性恐怖症”には大きな問題があることがわかる。それは、キャッチーな症状として描けない、とうことである。

“男性恐怖症”の原因は納得しやすい、そしてスキャンダルなアクションが満載だが、“男性恐怖症”の症状は、顔を赤らめるとか汗をかく、とか、最悪のケースでもつらくてしゃがむ・倒れる、くらいしか無い。精神的な疾患でメジャーになるには、視覚的に豪華なアクションがやはり重要だと感じる。

たとえば自傷行為とか、偏食、後は過食症のような“美味しいものをたくさん食べて吐く”というような、豪華なアクションがなければ流通要素が構築できない。

その、マイナスポイントを本書を通してむしろ理解できる。これは男性側にとっては都合が良く、ものの本質が今まで社会に露呈しなかった大きな原因だとも感じる。

『後輩♀は男性恐怖症、そして俺は女装男子♂』梔子まい

学園ラブコメもので“男性恐怖症”を描く。だが主人公は男子……

こちらの『後輩♀は男性恐怖症、そして俺は女装男子♂』は、打って変わって、かなり明るいテイストのマンガとなっている。女装することで“恐怖症”を無くす同級生男子と楽しく、学園生活(演劇部)を過ごすというストーリーだ。主人公は、どちらかというと男子だ。

1〜4巻まで読んでおり、『男性恐怖症だった私がAV女優になるまでの話』よりも絵のクオリティが高く、登場人物も多くて、演出に幅があり映画監督として読む分にはこちらの方が参考になった。

だが、主人公は“男性恐怖症”を克服せずに、それに甘んじながらも時を過ごす。

これは、同じ男性恐怖症の人間からしたら、あまり好ましく無いものに思えるかもしれない。というか、本作の“男性恐怖症”は、不治の病的な扱いで回復の気配が一切ない。

『男性恐怖症だった私がAV女優になるまでの話』は、男性恐怖症を克服していくストーリーが想像できるが、『後輩♀は男性恐怖症、そして俺は女装男子♂』は、生涯その症状と付き合うスタンスだ。

実際の取材は、『後輩♀は男性恐怖症、そして俺は女装男子♂』が豊富

『男性恐怖症だった私がAV女優になるまでの話』は、AV女優の当事者の経験談のみで構成されているのに対し、こちらの『後輩♀は男性恐怖症、そして俺は女装男子♂』は、取材をかなり重ねている片鱗が見える。

たとえば、“男性恐怖症”は、老人や子供に対して反応しないことであったり、普段の生活でどのような影響があるのかが丁寧に描かれている。

逆に言えば、男女共学の学園生活でも、楽しくやっていけるというのがわかる。

ヒロインは家庭に問題を抱えている設定だが、編集者がストップをかけた

『後輩♀は男性恐怖症、そして俺は女装男子♂』の男性恐怖症のヒロインは、序盤で実は家庭に問題を抱えており、兄が男性恐怖症のトリガーであることを匂わせるが、本作に人気が出てきたのか、それとも性的描写に躊躇したのか、その話題を深掘りするのを諦めている。巻でいうと、1〜2巻あたりで兄にプレゼントを買うストーリーだ。

これが、作品全体に後々強い影響を与えている。

とんな影響かというと、それでヒロインの葛藤するチャンスが消えてしまい、後半に行けば行くほど、女装癖のある男子学生の方が中心でストーリー展開するのだ。

まだ、完結していないので、今後の展開も追っていきたいと思う。

Q:どのような人にどちらの作品がおすすめか?

A:当事者は『男性恐怖症だった私がAV女優になるまでの話』。軽い感じでフォローしたい場合は、『後輩♀は男性恐怖症、そして俺は女装男子♂』

やはり、克服であったり、被害を減らすという意味では、欠点のある作品だが『男性恐怖症だった私がAV女優になるまでの話』を読むことを勧めたい。特に男性は、女性全般が男性の“筋肉や性欲”に、どのような恐ろしさを抱えているのかを知る、数少ないきっかけになると思う。

オタクの“妹好き”は、立派な“男性恐怖症”のトリガー。だが……

ところで、学園ラブコメの『後輩♀は男性恐怖症、そして俺は女装男子♂』を読んでいて思ったことがある。それは、よく妹系といわれるストーリーがオタク界隈で人気があるが、それは多くの“男性恐怖症”を生み出しているものの、女性も“妹扱いされることを好む”という、相反した日本人の特性を表しているのではないか、という仮説である。

自分達を苦しめる状況を、女性が自ら生み出す傾向が、日本のオタクたちにはあるのだ。

この点は、実は次に書こうとしている記事にも関係してくるので、あまり詳細は書かないつもりだが、このなんとも言えない不思議さは、今後、海外でも必ず意識されてくるだろう。

通常、宗教上の問題で妹と兄の恋愛は、どの国でも避けられる傾向がある。その開けては行けない扉を開けてしまった日本人の代償としてもしかすると“男性恐怖症”の多さが、あるのかもしれない。

そんなことを感じながら、私は『後輩♀は男性恐怖症、そして俺は女装男子♂』を読んだ。

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