自主映画・長編映画のスタッフ&お金問題。映画監督たちは一体どうすればいいのか?(1)希少スタッフへの考え方と、作品の精度の高め方

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デビュー作長編の制作は、この5年で遙かに困難化

自主映画の作品数が今後減っていく中で、映画監督はどうするのか?

現在、コロナ以前に700〜1000ほどあった自主映画の本数が急激に落ちています。

その大半が極端な低予算の映画でした。この状況は悪いものだったと言えば言えます。ですが、日本は経済的に衰退しており、公的資金も国宝的なマンガ・アニメに注がれる風潮もります。つまり頼みの公的資金は映画には使えないのです。

しかし、作品点数が激減していくのは絶対にスルーしてはいけません。なんとかしなければいけない。なぜなら、デビューする作家が増え、多様性が生まれるからです。

だが、この流れはコロナ後に潰されてしまっています。

その理由を考えながら、本記事を構成していきたいと思います。

この記事は非常にリスクある記事

今回、年末の時間の取れる時間にブログを書くにあたってどうしようかと考えた時に、いろいろ悩んだ結果、私の長編デビューの考えと、知る限りの現在の状況を書こうと思いました。

なぜ、悩んだかというと、これによって私は身バレする可能性もあるわけで、過去のブログで結構過激な記事を書いていることもあり、悩みました。でも、書くことにしました。

自主映画出身の巨匠たちが“自主映画を潰しにかかっている”

2000年以降の低予算ブームが、現在のカンヌ組若手のほぼ80%を閉める

それでもあえて書こうと思うようになったのは、コロナ以降の映画業界が低予算自主映画を“許さない”という状況に流れているからだというのがあります。

関連記事:深田晃司監督、コロナ禍より映画予算の低下に不安感「助成金の少なさは安全対策にも影響」

特に、一部の自主映画出身の現在は巨匠の域になりつつある作家たちが、過去の自身の低予算スタッフィングへの後悔というか、エクスキューズ的な面で、スタッフ配慮を打ち出す活動を始めたのも大きいと言えます。しかしながら、これが自主映画の作品数を一気に減らすことになりました。

つまり、自分たちの世代の後悔を懺悔する活動を行うことで、知らず知らずのうちにこれからの若い世代の邪魔をしている。そういう状況が、ここ5年くらいで激しく起きています。

例えば、関連記事にも挙げた深田監督などは、そのシンボル的な存在でもありますが、低予算のデメリットを語るばかりで、改善策や後進に対する前向きなアプローチは、ほぼできていない印象があります。これでは、ただの次世代潰しになってしまいます。

巨匠たちに同調できない理由:メジャーリーグもプロ野球も二軍選手の環境は過酷

あまり知られていないかもしれませんが、自主映画で作成された作品は、たとえ運良く多数の劇場で公開できても、ほぼ利益を生み出せません。

これは、現在の自主映画の興行収入の記録を持っている『百円の恋(2014)』が、アカデミー賞の日本映画代表に選ばれるなど超長期ロングランをしたにもかかわらず、1億円弱と言う点でわかります。

『百円の恋』も制作環境は熾烈で、撮影日数も非常に短期間だったと言われています。

自主映画史上最大のヒットとなった『百円の恋』でさえ、1億を超えていない。本作の制作費は、推定3,000万円程度。

また、自主映画を作らなければ、大学の新卒で映像業界に入るという極端に狭き道を通る以外、映像を生業にしにくいという面あります。経験者になれない。実績をそれだけ作りにくい。嫌われても動かなければ、監督のセンスが見えにくいというのがあります。

ですが、冷静に考えてみると、市場規模の大きい業界であってもどこも新人発掘のための環境整備には苦労しており、例えば年俸100億円など珍しくないアメリカのメジャーリーグであっても、2軍(3A)などは、バス移動やコンビのパンで暮らすというのは、当たり前です。

なので、私は本心では深田晃司監督のようなアクションはない方が良かったではないかと思います。しかし、それでも彼は初めて声をあげた監督なので、その点は若干評価します。

制作コストの問題を深く見ていく:カギは希少スタッフ

低予算映画の鍵を握るスタッフとは

ひとまずこれらを前提にして、日本の自主映画マネタイズの現状を見てみましょう。

人件費が特に高騰している分野(希少スタッフ)

  • 録音・整音スタッフ
  • 製作主任・プロデューサー
  • 助監督

現在、インディーズの映画製作の現場で起きていることは、製作費の高騰と人手不足です。特に製作主任・プロデューサーや録音・整音スタッフ、助監督などの分野に人がいない。

カメラマン、美術、衣装などは、自主映画の現場では監督が兼任することが多いので、作品のクオリティは下がるものの、さほど苦労することはないと言われています。

また、照明スタッフもカメラのクオリティが上がり、フィルム時代にあった“全く映らない”状況がなくなったため、外すことはできるケースはあります。

ですが、特殊な技術が必要な録音・整音スタッフや、極度の慣れの必要な助監督業務は、どうしてもプロ以外のスタッフを雇用すると、現場や作品が崩壊する可能性が高まります。

加えて、オーディションやロケ申請、コストカットや人員配置と制作系スタッフ(ラインプロデューサー、制作担当、時にはプロデューサー)の存在も3日以上の撮影期間を取るケースでは必須です。カメラマンや俳優、多くのスタッフが制作系人員のいない現場を避ける傾向もあります。

逆に言うと、この辺を仲間内で補えあえれば、自主映画制作はかなりスムーズになります。

優秀な希少スタッフと親しくなるには

これらのなかなか見つからないスタッフを“希少スタッフ”と名づけましょうか。

では、ここで私の考えるこれらの優秀な希少スタッフたちといい関係を持つための考えを述べていきたいと思います。それは端的に言うと以下の3つの工程を踏む感じとなります。

  • 希少スタッフたちのクライアントになる(1)
  • 監督・脚本などの主要部門にもし興味があれば、相談役を担ってもらう(2)
  • 彼らに現場での裁量を与え、スケジュールを詰めすぎない(3)

希少スタッフたちのクライアントになる(1)

これは現在も多くのCM系映画監督が行なっている行為で、普段の仕事仲間を安く雇うというものだと言えます。しかしながら、これはそもそもCM業界に入るのが容易ではないし、予算権を握るに至るにはかなりの実績も必要となります。しかも、参加してくれるからと言って関係は良くなりにくい。

よって、CMディレクターになるのも候補に加えつつ、私は別のルートでこの関係になることを薦めたいと思います。それは以下の内容です。

  • 自主映画の上映会に行き、希少スタッフたちと知り合いになる
  • 業務で少しでも関係しているものは、相談してみる

近年、さまざまな業務で動画を作ることが増えており、その延長上にはセミプロ〜プロの手助けが必要な状況も少なくない。また、自身のYoutubeなどの収益化が見込めそうなケースでの人件費の確保も考えられます。また、習い事や子供の模様しものの撮影でもいいです。

そう言う時に、希少スタッフに連絡を取ってみるのをお勧めします。無論、上映会でそのスタッフの関わった作品を見ていることが前提です。

助監督・プロデューサーであれば、段取り、スケジュール、ロケ申請など、録音スタッフは収録、素材の編集、カメラマンは撮影などの相談ができるが、プロ仕様でなければ、希少スタッフは撮影に関して全般的にできることも多くあります。

そして忘れてはいけないのが謝礼である。彼らは、その人がどのような金銭的な誠実さを持っているのか非常に気にしている。どんな些細なことでも、謝礼を提示して支払いするべきです。

その謝礼は、それなりの高めの金額にしておきましょう。

これらの活動によって、確実に非経験者でも確実に希少スタッフと知り合うことができる可能性は高まります。それ以上に彼らがどんなことを気にしている、どんな人種かも知ることができます。

自主映画の上映会に行くべし

これらの前提として、私の考えは自主映画の上映会に行ってほしいと言うことがあります。

自主映画の上映会は、正直言ってほぼ身内が100%のイベントだ。メインはキャストと監督のイベントである。この両者の自己満足の場だとも言えなくもありません。

良くてキャストの親戚やライバルの監督が来るくらいで、チケット代が提示されていても自腹で来ない人も多い。その中で、少しでも予告編やその作品の情報に興味を持てそうなものがあったら行ってみてほしいです。優秀な希少スタッフほど、自主上映会に来ていることが少なくないからです。

そして、希少スタッフほど外部の人間との関わりを重視し、感想を聞きたがっている傾向があります。その人の性格にもよりますが、未経験者でも門戸を開いてくれる人は必ずいます。

監督・脚本などの主要部門にもし興味があれば、相談役を担ってもらう(2)

これは私の経験談になるが、希少スタッフたちのタイプを並べてみます。

  • 将来的には自分で脚本も書き、監督もしたい(1)
  • 監督や脚本は書けないが、監督の右腕になることに喜びを感じる(2)
  • 映画作りが好きで、辛くてもある程度やれる(3)

希少スタッフの多くは、テレビや配信や広告、CMで生計を立てることができ、経済的に基盤を作ることが難しくない。そんな中で、自主映画に携わる理由とは何か? そこについて考えてもらいたいです。

今までは(3)で処理されてきた自主映画のスタッフ問題ですが、これは過去の自主映画に“やせ我慢の風潮があった”ことは否めません。よってこの(3)には絶対期待しないでください。

今のご時世ですとやはり、(1)(2)の検討をすることをお勧めします。

コンセプトに参画してもらうメリット・デメリット

特に近年、(1)が目立ちます。ですが、特に助監督・制作担当のような演出系のポジションには(2)のような参謀タイプの人間も少なくありません。(2)に関して、もともと録音・制作・助監督に加え、俳優なども含まれるケースがあります。

このような志向で作られた作品で著名なのは『メランコリック(2018)』だと言えます。この映画はスタッフ人と言うよりは、なかなか思ったような出演作に恵まれない若手俳優たちが集って作られたもので、かなりの低予算と他部門の未経験者の集った作品でした。

国内外で高評価を得た『メランコリック』は、出演機会を獲得するために、若手俳優たちが資金とアイディアを出し合って長編映画を作ると言うものでした。俳優以外のスタッフは未経験者も少なくなく、自主映画デビューとしてはモデルとしやすいと思います。

これらの人材に助力をしてもらうことで、根本的な問題の解決にも繋がり、チームとしての結束力も強まることもある。また、期待すべきではないがコストダウンも計れる場合もある。

しかし、最初に断っておくと、もちろんやりたいことができなくなるリスクも高く、またかえって揉め事を引き起こす可能性もある。

先に述べた『メランコリック』もみたらわかるのですが、破綻が多く、内容も陳腐さがあり、一本の長編として評価するには、なかなか厳しいものがあります。それは、おそらく監督がシナリオや演出を、統一した思想でコントロールできなかったことにあると思います。

それでも、(1)(2)の人材を駆使して映画を作るのを私はお勧めしたいです。これは、将来的に日本の自主映画の大きな特徴になると考える。

映画作りの現場では、監督のエゴが先行するケースが少なくない

ここからは、実際の希少スタッフとの関係性ができた上での話をしていこうかと思う。

低予算でしんどい現場運営が見込まれる低予算自主映画において、意思疎通とスタッフのやる気問題は非常に重要だ。少人数スタッフの現場では、監督の判断力も重要だが、それはエゴにもなりかねず、スタッフのやりたくないこと、物理的に無理なことも増えがちになる。

そういう状況に、有能な希少スタッフほど敏感である。だが、これらのトラブルを避ける方法は、あまりないと言っていい。

例:録音スタッフがキャスト選定に参加して、成功したケース

私のケースを一つ取り上げておきたいと思います。

私の場合、録音スタッフにオーディションにいつも同行してもらっています。これは、脚本のシーンにおける俳優の声の状況やアフレコの問題をクリアしておきたいと言うことがあるからです。

また、録音スタッフには「セリフマニア」も少なくありません。シナリオの読み込みで、全体の流れやセリフに興味を持ち、深い知見を持っている録音マンもいます。

例えば、私が救われたのは、静かな夜のシーンで小さな会話をする時、声が聞き取りやすい俳優は思ったより限定されるということを録音スタッフに教えてもらった時です。

ここには、そのセリフを発する俳優の声や滑舌から、普段の仕草、小道具での音の成し方の癖、突発的な演技での呼吸などの知識が散りばめられています。

この時、私は容姿メインで滑舌に若干問題がある俳優を選ぼうとしていました。ですが、録音スタッフに指定されたエチュードをしてもらうと、その俳優に不可能な役割だったことが明らかになった。

こういうことは、特に初監督をする人間には知っておいてほしいと思う。

その他の自主映画まわりの金銭の関係しそうなトラブル

ここまでは制作に関することに特化した対応方法についてお伝えしてきました。

ですが、そもそもメジャー映画の制作体制・スタッフィングと自主映画の制作体制には大きな違いがあり、それは、制作のしやすさや作品のクオリティにも関係していますが、もっと他のことにもつながっています。

例えばそれは、人事的なリスクテイキングなどにも表れます。

例えば、製作主任・プロデューサー不在の作品は、あとあと俳優やスタッフと揉めたり、資金問題で監督とクライアントの間に入る人員がいないために、トラブルが拡大する傾向があります。

そのほかにも、ポストプロダクションでのデータの不具合、例えば音声の途切れ、画像の上映時の乱れなどが、近年のスタッフィングトラブルとしてあります。これらは、一見するとそうは見えませんが、ギャランティ的なトラブルであることも少なくありません。

まとめ

いかがでしょうか。

今回は、作品のコストの大部分を占める人件費をメインに、話をしてみました。

次回は、具体的なデビューの仕方、デビュー資金について触れていきたいと思います。

関連記事:自主映画・長編映画のスタッフ&お金問題。映画監督たちは一体どうすればいいのか?(2)長編映画の最初の資金繰り・その後の信用

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