配信で自主映画を見る時代:『アルビノの木』を見ながら、藝大卒の映画監督が鑑賞者に伝えたいことを考えて見る(ライブラリ化のリスク)

投資と映画

本作『アルビノの木』は、多くの映画祭で賞を受賞したという触れ込みだが、どの映画祭も開催歴が浅く無名である。かと言って作品はよくないというわけではない。むしろ意欲作で、自主映画ではあり得ないレベルの出来である。こういう映画の存在が映画界を面白くしていく。

本作は各配信プラットフォームで見ることができます。

自主映画の観方について考えるきっかけとなった『アルビノの木』

あるとき『アルビノの木』アマゾンプライムビデオで配信されているのを見つけた。

そして、それを見てツイートしたところ監督から直々の返信があった(上記の画像)。ツイートにある通り、本作『アルビノの木』は400万円の低予算映画だ。ただ、監督自ら身銭を切っているとはいえ400万円は自主映画ではかかっている方の部類に入る(とはいえ大赤字だろう……)。

自主映画は、鑑賞者に「知られていない事」が山ほどある

同作品のレビューには、作品中のアラを探す心無いレビューが散見された。
これらのコメントは『権威的な誰かが言った”模範としての映画鑑賞”』の影響が強く出ている。これらの態度による刃は、果たして全ての映画監督、全ての映画作品に”公平に向けられて良し”とするものなのだろうか?

自主映画の中では『アルビノの木』は、非常に優れた作品として知られていた。

私は、実は『アルビノの木』を以前より知っていて、見たいと思っていた自主映画の筆頭に上がっていた。それはなぜかというと、某映画祭(有名な地方の映画祭、確か高崎映画祭だったような)のディレクターが、2016〜2017年に非常に印象に残った自主映画だという話をしていたからだ。

そして鑑賞してみて、確かに『アルビノの木』は優れた自主映画だと感じた。

だが、それは“自主映画”という括りで作品鑑賞することに慣れている私や映画祭ディレクターサイドの立ち位置で、アマゾンレビューを見ていて、世間はそうではないというのを感じたのだ。

コミケや地下アイドルなどは、地下性を愛するのに、映画ではなぜか愛されない

ただ、確かに痛いところはある作品である。

しかし、私はこのレビューを見ていて感じたのは別のところだ。それは何かというと、マンガ(コミケ)やアイドル、インディ・プロレス、甲子園野球などを鑑賞している層の持つ、いわゆる若手や未成熟の作品に対する愛が映画は極端に欠損している、ということだ。

つまり、自主映画にはマニアが存在しない。

日本の自主映画の本数と多彩さに反して、マニアがいない理由を考えながら記事を書く

本来こういうインディ系オタク愛は、日本人に多く備わっているとはずで、どんな人にも何がしかの分野でインディ的なものを愛好する傾向がある。と、私は思っていた。

だが、こと映画に関してはそこが欠損している。

だったら、おこがましいかもしれないが、私がさまざまな情報を開示して、わかってくれる人だけでもその方面に誘導できないか……? という動機が、この記事を書く発端である。

では、少しづつ掘り下げて言及していこう。

『アルビノの木』の布陣を見て私が思うこと

キャストの注目点

本作に出演したキャストは以下の通り。

  • ユク:松岡龍平
  • ナギ:東加奈子
  • 羊市:福地祐介
  • イズミ:山田キヌヲ
  • 火浦:長谷川初範
  • 今守:増田修一朗
  • アヤ:尾崎愛
  • 根元:松蔭浩之
  • 群田:細井学
  • 侑子:松永麻里
  • チトセ:山口智恵

この布陣に対し、私のような業界関係者はどう見るかというとまず、山田キヌヲさん尾崎愛さんが出演しているというところに目が向く。この二人は、自主映画に協力的でしかも脚本を丹念に読んでくれる女優として有名だ。

尾崎愛さん(自主映画に長期間携わり、彼女の出演作には日本を代表する監督になった監督たちの代表作も多い)

尾崎愛さんは、2018年に俳優を引退を引退しているようだが、空族『サウダーヂ(2011)』をはじめとしたヨーロッパや北米で高い評価の映画に多く出演し、重要なパートをになってきた。

山田キヌヲさん(この人も同様に自主映画のグレードをアップをさせる人として有名)

山田キヌヲさんは、個性的な名前のためにエンドクレジットで目立つ。一貫して、挑戦的な映画での配役が多い

また、このクラスであり得ない大御所の長谷川初範さんが出ているという点に多くお人が目がいくと思う。日本の俳優の中でも所属する事務所の了解をとりやすくなったのか、自主映画に出演するベテラン俳優さんも増えてきた。

現代美術家の松蔭浩之が出演しているのにも驚く。彼は日本最強の現代美術ギャラリーであるミヅマギャラリーに所属しており、写真系の作家として著名だ。

スタッフ(私が気になった部門のみ抽出)

  • 監督 金子雅和
  • 脚本 金子雅和 金子美由紀
  • プロデューサー 金子雅和 金子美由紀
  • 撮影 金子雅和
  • 美術 金子美由紀
  • 衣装 金子美由紀
  • 特殊効果 高橋昂也 高橋絢
  • 編集 金子雅和
  • 音楽 石橋英子
  • 助監督 滝野弘仁 登り山智志
  • 監督助手 福田佑一郎
  • 制作 名倉愛 堀内蔵人

上記を見てわかると思うが、監督・脚本・プロデュースは全て監督とその奥さんか姉か妹と思われる二人だけで構成されている。それ以外にも、監督は編集を自ら行い、奥さんか姉か妹さんは衣装・美術も手がけている。そして、この低予算の中でも特殊効果部門があるのも気になった。

助監督・監督助手にクレジットされている方々は、滝野弘仁氏登り山智志氏名倉愛さんは、実は自主映画監督でもある。インディーズでは監督同士が助け合うケースが少なくない(もちろん、スッタフには報酬は支払う形で)。

配信で自主映画を見る注意点:ライブラリ化リスク

スタッフ・キャストの布陣、諸情報から「予算感」「覚悟度」が伝わることがある

『アルビノの木』のケースでは、自主映画会で有名なキャストの出演やメインクレジットをほぼ監督が占めていることで、映画制作の熱量が伝わる。だが、それ以外にもスタッフィングやキャスティングはさまざまな意味を持つので、できれば見る前にチラ見するだけでもだいぶ違うと思う。

しかも、熱量だけではなく、予算の苦しさなどもときには伝わる。

私などはそのスタッフが監督の身内かどうかも大体予想がつくので、どういう背景でどのくらいの期待感をして見るべきかも事前に考えがつくケースが多い。というか、自主映画を5〜10本くらい見ると一般の人でもわかるようになってくるのではないかと思う。

大作と自主映画を陳列されるということ:配信=ライブラリ化のリスク=必要以上の酷評

配信というのは同時に、多くの映画のライブラリ化で必然として競わされる。

その割に、大作よりも自主制作の方が自由度が高いため、往々にして自主作品の方がポスターやイメージ画像の出来がいいため、鑑賞者の失望につながりやすい。

これがアマゾンプライムに起きている可能性がある。

ただでさえレビュー数が少ない自主映画で、3人であっても、心にもない酷評レビューを投稿すれば、それは大作と違って、大きなダメージとして残るのを忘れないでほしい。

『アルビノの木』は、メジャー映画のイマイチなポスターやメイン画像とは一線を隠す出来であったため、予算感を無視した期待感を抱かせて酷評レビューに繋がった可能性がある。

だが、配信は最初から一定のクレジットが付帯情報としてついている。

事前にそれらを1〜2クリックしてチラ見しておくことで、映画の印象は確実に変わる。また、鑑賞後の損得の感じ具合が大きく変わることも少なくない。

自主映画大国の日本の現状=本質的な支援者が少ない

私たちは“保守的な広告映画”に“自由”を求め、“挑戦的な自主映画”に“クオリティ”を求めてしまう

このことは自戒も込めて言っておきたい。

映画の資金のことについて、多くの人々はほとんどわからないだろう。機材が進化し、データとしての映像自体には中々差異が出にくくなったからだ。だが、それでもクオリティは予算に大きく比例するのは今も昔も変わらない。

そのため、海外の映画祭では、予算を書き込むフォームがある場合が多く、それによってなるべく公平に審査を行うとする配慮がある。

そんな中で、鑑賞者は、いわゆる大作=企業の資金がのったもの自主映画=個人資金で大作がやれない願望を実現する作品を一緒くたに見ることがほとんどだと思う。これは自国の映画作家を育てると言う意味では、好ましくない観賞態度だと思う。

ハリウッド映画の“挑戦の実現”と“規模の大きさ”と日本映画を混同してはいけない

ただ、それでもハリウッド映画は挑戦的な作品が多いのに、日本映画はハイバジェット作品も自主映画もだらしがなく見える、という感じる人は少なくないだろう。

ところがである。ハリウッドがそれを実現できるのは、世界覇権国であり、世界の映画の商業パイプラインを支配しているところにある。シネコンではハリウッド作品ばかりがかかる。

それに、スパイ映画やSF映画を、軍や政治が資金的に援助してきたいわゆる“ソフトパワー”としての戦勝国優位性がどうしても無視できない。これは日本人には許されない手法だとも言える。

その中で、日本人は日本人で映画を鑑賞する態度を模索していくべきではないかと、鑑賞者に問いかけたいと考えている。同じ作り手として甘めな態度であるという批判をされるかもしれないが。

『アルビノの木』のその後の展開を見て見る

『アルビノの木』の金子監督はその後、『リング・ワンダリング』(現在劇場公開中)と言う作品で商業デビューをして、『アルビノの木』のキャリアをさらに進めて、若手の有力候補として海外の教育資金プログラムに選ばれてる。

『アルビノの木』の金子雅和監督は、その後、キャスト・スタッフの布陣見る限りおそらく商業作品である『リング・ワンダリング』でキャリアを重ねている。本作では『アルビノの木』では実現しなかった欧州映画祭での評価や、世界的に権威性の高い映画祭での上映が続いている。

ただ、覚えてほしいのは、今回たまたまアマゾンプライムビデオで酷評を書かれた作家が、うまくキャリアを重ねている例を扱っただけで、普通はほとんどの映画監督は出世しないで終わる。

そんなに多くはないだろうが、心無いレビューがとどめを刺すケースもないとはいえない。

ここを軽く観ないでほしい、と私は思う。

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