DiDi上場廃止は序の口。まだまだ続く、中国テック企業の非民営化と未来予測『ディープ・ステイトとの血みどろの戦いを勝ち抜く中国』副島隆彦

書評

著者紹介

副島隆彦(1953〜)

福岡市生まれ。本籍・佐賀市。早稲田大学法学部卒業。大学卒業後、銀行員(インタビューなどで英国:ロイズ系の金融機関勤務だと答えている)として英国に勤務するも3年ほどで退職し、帰国する。その後、代々木ゼミナール講師(受験英語)、常葉学園大学教授を歴任。

専門はアメリカ政治思想と政治史。選挙や米国政治人材に詳しく、オバマ当選(2008)、トランプ当選(2016)の予測を的中させたが、バイデン当選(2020)を外す。リーマンショックを予測した『連鎖する大暴落』、『逃がせ隠せ個人資産』、『世界権力者シリーズ』はベストセラーに。

目次

  • 第1章 中国の歴史を根底から変えた習近平の「共同富裕」(「共同富裕」の本当の意味;過剰な不動産投資を徹底的に潰す中国政府 ほか)
  • 第2章 これから世界の通貨の中心となるのは、「デジタル人民元」である(世界的なデジタル通貨への流れは止まらない;これからの世界決済制度をリードするデジタル人民元 ほか)
  • 第3章 マスメディアが煽り続ける台湾問題の真実(日本はアメリカの台湾防衛の肩代わりをさせられる;クアッド首脳会議の裏で起きていた真実 ほか)
  • 第4章 テクノロジー開発競争と欧米諸国の没落(中国と台湾はTPPに加盟できるのか?;アメリカの裏庭に入り込む中国 ほか)
  • 第5章 ディープ・ステイトと中国の終わりなき闘い(中国VS.ディープ・ステイトの闘いが始まった;2024年の米大統領選を勝ち抜くトランプ ほか)

概要解説:共同富裕と台湾独立の闇

昨年末からのアメリカ株式市場で混乱を引き起こしている中国ADR株

最近では配車サービスの最大手DiDi(日本ではソフトバンクグループが出資)、昨年はTALエデュケーションニューオリエンタルエデュケーションアンドテクノロジー(EDU)などの中国系大企業の上場廃止&共産党指導が続いている。

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これらの企業は、表面上は「中国共産党の要請に応じずに強引に株式上場した」ということで、共産党からの妨害が入っていると言われているが、それにしても不可解なところが多い。

本書『ディープ・ステイトとの血みどろの戦いを勝ち抜く中国』では、そんな謎多き中国ADRの上場廃止リスクに関して、中国の経済的な予測に関しては未だ予想を外していない副島隆彦氏による、詳細な分析が行われ、本書では全容が解き明かされている。

テンセントやアリババもやがては上場廃止に

その重要なキーワードが共同富裕』である。

副島氏はかねてから、中国共産党は中国系ビックテック(テンセント、アリババ、シャオミ、ファーウェイなど)を国有化して、パブリックプロパティ(公共財産)にしていくだろうと予測していた。

この流れの中に恒大集団の破綻リスク(実質的な解体)も加わる。

一見混乱した動きに見えるが、本書を読むとこれらの流れが、習近平による中国国民の格差を是正するための動きであることがわかり、多少の外交的な軋轢を産んでも、中国共産党が国内問題(貧富是正)を優先しに動いているというのが理解できる。

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米国メディアや日本のマスコミはこれらの動きを“中国の混乱”とか“中国の衰退”と書き立てているが、それらが全くお門違いで、今後ますますこのような“事件”が多発していく傾向がわかる。

副島氏は最終的に「テンセント」「アリババ」もデジタル人民元のために国有化をたどるだろうと結論づけているのに、注目しておきたい。

台湾問題はヤラセ:台湾を国連から排除したのはアメリカ

また、同書籍の後半では台湾独立問題を取り扱い、アメリカのアジア戦略に対する中国の同行の予測を試みている。その予測も、この5年ほど副島氏の予測通り動いている。

確かに中国共産党の台湾併合の動きは過激な面もあるが、それは弾圧というよりは、実質的には中国と台湾の間で行われている交渉という側面の方が強い。

そもそも、台湾問題を作ったのがアメリカであり、その発端の事件についても本書では触れられている。それが第三章の1971年の「アルバニア決議」に関する記述だ。

また、本書を読むことで、台湾セミコンダクター(TSM:世界大手)など手放せないアメリカのサプライチェーン混乱などの状況も理解できる。半導体を自前で生産できないアメリカは、台湾が中国に併合されると、今後は中国によって遠隔で、もっと簡単に産業危機を起こされてしまうのだ。

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このように、相変わらず政治経済的な面では重要な中国関連情報を本書で取得できる。

ワクチン関連に関して、副島氏の一方的で非論理な主張が繰り返される

だが、困ったことに、本書はクソな面もある。それはコロナ関連の記述だ。

ディープステートというくくりは、産業面では世界情勢を見やすくするのに役立つが、コロナ関連に関しては、単なる陰謀論的な論理破綻を招きやすい。本書は残念ながらそのダメさがまだある。

本書では、ワクチン投与で死亡した人数と、その摂取によってコロナが再拡大した説が語られているが、他のページのような詳細なデータは皆無で、副島氏の私見の羅列が続く。

仮に、ワクチンが副島氏の思うような悪どいものであっていいが、それにしては無駄な紙面を割き過ぎで読む方からしたら時間がもったいない。その辺は、考慮して本書を読んで欲しい。

Q:どのような人が読むべき本か?

A:アメリカ株の個別株をトレーディングする人は絶対読むべきだと思う。

たとえ、中国ADRや米国ハイグロース株を取り扱わないにしても、近年のNASDAQやS&P500は、この中国ADRを発端するフラッシュクラッシュが頻繁に起きており、2022年はさらにその問題が激化することが予想される。

その中で日本では広瀬隆雄氏高橋ダンも果敢に、株価の予測をしているものの、一旦中国の問題がで始めると、途端にほとんどの予想が当たらなくなってしまう。

DiDi株で大損したことを告白する高橋ダンの動画。その他の中国ADR株はガチ保すると語っているが、それが的外れであることは副島氏の本を読むと理解できる。
年間の予測で驚異の的中率を誇る広瀬隆雄氏も、中国関連問題がおこると途端に予想を外しまくるようになってしまう。

そういう意味で、中国関連の大枠がわかる本書のような本を読むことが、年間を通しての大きなリスクヘッジとなるのは間違いない。

Q:なぜ、副島氏は中国の読みを外さないのか?

A:副島氏はかつて二階俊博の政治的なアドバイザーとして自民党と付き合いがあったことを著書やDVDで語っており、米国のチャイナロビーにも詳しく、事前に中国の動向を知る術を、多彩に持っているのが挙げられる。現役の共産党員とのパイプももちろんある。

また、彼が中国研究本を初めて出したのは、もう15年近く前である。研究自体は1990年代から続く。当時はまだ、中国が世界覇権国になることを誰も予想しておらず、そもそも中国へ直々に取材に行って、共産党員に直接取材するということもなかった。その点で時間的な利点が彼にはある。

↑副島氏の中国研究は2000年代前半から本格化する前、1990年以前からも続く。

副島氏は1990年代から中国の世界覇権を予測しており、それに基づく研究を継続的にしていることは、あまり知られていない。そもそも彼は覇権国・属国理論の専門家だ。

覇権国から転落しつつあるアメリカの予想を外しているのはむしろ、中国の予想が当たっている裏返しのところも、私個人の意見だがあるように思える。そういう意味で、今後も彼の中国研究に関しては、注目していきたいと思う。

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