IFRS・米国会計基準(USGAAP)は、米国グロース株を守るための法改正が進んでいる。とある本を読んで、日本会計基準との溝ができやすい“無形資産”について考えてみる

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こちらの書籍はオーディオブックで読むことができます。
非常に難しく、繰り返し読まないとわからない本なのでオーディオブックがおすすめです。

初めに

当初私はいつも通り、本書『無形資産が経済を支配する』を読んでその書評を書こうと思ったが、読んでいて気がついたことがあった。そのために、今回は少し書く内容を変えていこうと思った。

『無形資産が経済を支配する』は、ドットコムバブル以降のアメリカの会計基準改革を記載

このブログ記事の前提として、株式投資をやっていて、あるいは株式投資産業に従事していて、頻繁に決算短信を読み込む必要がある人に向けた内容であるということを先に言っておきたい。

本書は、アメリカはそもそもが米国会計基準(USGAAP)やIFRS(国際会計基準)が前提のため、本無形資産に対しガラパゴスの日本基準のことなどを全く考えられていない。そのために私がこの記事を書く必要があると感じたわけである。

本書の結論をズバリいうと、これまでのIFRS・米国会計基準の制度改正と、今後期待される制度改正について書かれた本だと言って良い。読むことで、海外の株を買うときの値動きを把握しやすくなるだけはなく、長期にわたる無形資産・無形投資のトレンドも理解できるだろう。

IFRSや米国基準は無形資産評価のために、改正を繰り返す

IFRS・米国会計基準(USGAAP)と日本基準の無形資産・無形投資への評価

  • 日本基準の無形資産評価(価基準21号29項、適用指針10号59-2項)
    受け入れた資産に法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、その無形資産は識別可能なものとして取り扱う。
    また、特定の無形資産に着目して企業結合が行われた場合な ど、企業結合の目的の1つが特定の無形資産の受入れであり、その無形資産の金額が重要になると見込まれる場合(著者注:いわゆるのれん)には、当該無形資産は分離して譲渡可能なものとして取り扱う
  • IFRSの無形資産評価(IFRS3.B31)
    取得企業は、のれんとは別に企業結合で取得した識別可能な無形資産を認識する
    無形資産は、分離可能性規準または契約法律規準のどちらかを満たす場合に識別可能となる
  • 米国会計基準(企業会計基準公式サイト抜粋 平成25年6月28日付)
    (1)当該資産に起因する、期待される将来の経済的便益が企業に流入する可能性が高いもの。
    (2)取得原価を信頼性を持って測定できるもの。

上記の法務記述だとやたら難しいが要約すると下記の通りになる。

  • 日本基準=分離譲渡できるもの:のれん(フランチャイズ、茶道の〇〇流とか)
  • IFRS・米国基準=分離譲渡できるもの(のれん)、契約法律基準(認可、提携とか)その他

つまりIFRS・米国会計基準は、日本基準よりもかなり多くの無形資産を計上することができる。これによって、企業経営に大きな違いが出てくる。ようするに

無形資産・無形投資の評価しやすさ
日本基準を100とすると、IFRS・米国基準(USGAAP)が400〜1,000くらい
加えて、IFRS・米国基準(USGAAP)は今後も無形資産のトレンドで法改正が進む

これらの評価によって、米国株のハイグロースなど無形資産を多く含む株は、暴落しにくくなり、また、時価総額において、大きな金額を叩き出しやすくなる。

※ブログ主の勝手な肌感覚です。あくまでご参考に

無形資産・無形投資の評価のきっかけは、バブル期の日本

グローバル企業の時価総額の順位を大きく変えた、米国会計基準の改正とIFRSの新設

IFRSや米国会計基準を生み出したアメリカ・イギリスが無形資産・無形投資を意識するというようになったのは、そもそも1980〜90年代ごろのことである。

当時の企業価値ランキングで、無形資産・無形投資を評価せずに、設備や不動産ばかりを評価した日本企業に上位を奪われて、GDPの算出がおかしくなったということが原因だといわれている。

特にアメリカは、日本がバブル崩壊した後に、ウィンドウズ95を大ヒットさせたマイクロソフトや、アップルなどの巨大IT企業が誕生していたにもかかわらず、しばらく企業評価は低迷していたここで、無形資産・無形投資を評価して、GDPなどのグローバル指標を評価し直そうという動きが出てきた。

よく日本の衰退の象徴として出されるバブル期と平成最後の企業価格比較だが、この裏には単に日本企業が衰退しただけではなく、IFRSや米国会計基準の無形資産・無形投資の計上方法にも大きな関連があったのだ。

無形資産トレンド予測の名著『無形資産が経済を支配する』

ここまでの前提で、本書『無形資産が経済を支配する』に戻って考えたいと思う。これらの知識があるだけで本書を読む時に読み込める内容が、断然に変わってくるからだ。

本書『無形資産が経済を支配する』は、日本人が無形資産無形投資を知る上で重要なことに加え、今後アメリカとイギリスが標榜しているトレンドについて書かれた、株式投資家にとっては、かなり重要な本となっている。そして、ほとんどの人がこの本の内容をわかっていない。

読み方がわからない非常に難しい書籍なのだ(このブログをここまで読んでいればほぼOK)。

目次

  • 第1章 無形資産の台頭で何が変わるのか?
    第Ⅰ部 無形経済の台頭
    第2章 姿を消す資本
    第3章 無形投資の計測
    第4章 無形投資はどこが違うのか?:無形資産の4S
  • 第Ⅱ部 無形経済台頭の影響
    第5章 無形資産、投資、生産性、長期停滞
    題6章 無形資産と格差の増大
    第7章 無形資産のためのインフラと、無形インフラ
    第8章 無形経済への投資資金という課題
    第9章 無形経済での競争、経営、投資
    第10章 無形経済での公共政策
    第11章 無形経済はこの先どこに向かうのか?

著者情報

ジョナサン・ハスケル(1963〜)
イギリスの経済学者。インペリアルカレッジビジネススクールの経済学の教授で現在、英国統計局の理事会メンバーイングランド銀行の金融政策委員会のメンバー金融行為監督機構競争決定委員会および支払いシステム規制執行および競争決定委員会のメンバーを務める。

著書は『無形資産が経済を支配する(Capitalism Without Capital)』のみ。

無形資産が経済を支配する』に登場する無形資産・投資

  • スターバックスの店舗マニュアル
  • アップルのデザインとソフトウェア
  • コカ・コーラの製法とブランド
  • マイクロソフトの研究開発と研修
  • グーグルのアルゴリズム
  • ウーバーの運転手ネットワーク などなど……

これらを無形資産・投資としての要点別に分類

  • 契約・法律関係(特にシナジーを誘発するもの)
  • 独自性(スタバ流の研修(器具・素材など)はコメダには使えない)
  • ネットワーク(ウーバーの登録者、アップルのファンなど)
  • ブランドイメージ(『のれん』に近いが、日本基準の範囲が狭い)
  • スピルオーバー:漏れるという英語(大衆化する要素だが、真似されやすいリスクを内包)

日本人投資家が気がつかない、無形資産・無形投資の重要性

現在、日本人投資家の特に初心者に地獄のブームを起こしているのが、レバナスという商品だ。レバナスとはレバレッジナスダック100の略称で、そのほとんどが新興グロース企業の投資信託である。

それらは通称ハイグロース銘柄と呼ばれ、値動きの激しい銘柄として認知されている。

これらのハイグロース銘柄は、将来資産価値を大きく見積もられて投資されるためPER(ざっくりいうと見込み借金返済年数:単位は)が他の産業よりもかなり高く出る。それゆえに、値動きが激しくたとえ業績が良い企業でも、思わぬ局面で激しいマイナスを喰らうことになる。

それによって、短期間で大きな損を抱え、市場から退場する初心者投資家が絶えない。そんな人々が読むべき本として私が進めたいのが本書『無形資産が経済を支配する』である。

無形資産が経済を支配する』を読むことで、レバナスなどのハイグロースETFやハイグロース個別株などのリスクが事前に格段に把握しやすくなり、また、底値で買うタイミングだったり、ホールドして辛抱すべき期間などもわかる。要するに銘柄を持つリスク許容度が大きく改善する。

以下、本書で書かれている要点を私なりに強引だが、端的に抜き出していく。

無形資産・無形投資の第一のポイント:資産価値がいきなりゼロになる

無形資産の第一の特徴として、資産がいきなりゼロになるという点がある。

目に見えない資産なので当然でもある。冷蔵庫や土地、車などはものとして残るためにゼロにはならないが、プログラムは削除したり、コピーされると一瞬で無価値になる。これが無形資産全般に起きる。

ただ、この実物との比較での資産低減は実は本題ではなく、本書で語られるのはもっと別のことだと言っていい。なぜなら、資産をゼロにしても企業に有効な資産もあるからだ。

その例として出されるのが、ライト兄弟が泥沼の裁判をやっていた飛行機の特許ライセンスである。飛行機のライセンスは、アメリカ政府がその特許戦争に介入して、実質、ゼロ円化したことによって大きな展開を見せ、そして、全てがアメリカにとって有利に働く。

飛行機の特許の解放はその後、アメリカの世界覇権に大きな影響を与えたのだ。

また、いっとき流行ったフリーミアム(当初だけ無料で提供する)なども、無形資産の運用の特徴とも言える。ゼロ円化してもコントロールができる限り、値を戻せるのも現代の無形資産の特徴だ。

つまり、このゼロ化しやすい無形資産のメリット・デメリットの考え方が本書の要となる。

無形資産・無形投資の第二のポイント:資産価値が一気に拡大することがある

これは第一のポイントと被るが、特徴にフォーカスすると実は奥が深い。

例えば、Googleのアルゴリズムは、その利便性からあっという間に業界のシェアを奪った。サブスクリプションなどの在庫が必要ない商品もこれに該当する。

本書で触れられているのはウーバーやドアダッシュなどの、契約者の例だが、これに関してはリスクもある。一気に拡大し、そもそものネットワーク構造が変化したり、契約の内容が変わったりすることで、組織にかかる税金が変わったり、また労働組合などができるきっかけにもなる。

上記のことから、この資産拡大性に投資家が期待していることが、異常な高さのPERにも表出しやすいケースが多い分、負の側面も多く、思わぬ減益や資産の目減りを誘発する可能性を見ておく必要がある。これらについては、本書に詳しく書かれている。

無形資産・無形投資の第三のポイント:他に譲れない場合がある

無形資産には当然、日本会計基準の”のれん”のように、特許や許可証という形で、他者にゆずれるものもある。だが、本書『無形資産が経済を支配する』で取り上げられている、今後世界的なトレンドなって、強力なインパクトを持つであろう無形資産には、他者に譲渡できないものの方が多い。

この譲渡性の低い無形資産を持つ企業は、資産価値が高くても、リスクがあるということもできる。だが、逆に、その資産がコピーされたり、スピルオーバー(類似品の流出)がしにくいという側面もある。この“他に譲れない側面”が、実は本書『無形資産が経済を支配する』の最大の読みどころである。

この譲れない技術に関しても、負の側面があり、例えば株式投資をする時には、その企業の独自性と兼ね備えて考えておかねばならない。

この第三のポイントを知ることが、今後の投資トレンドを読む大きな手がかりとなる。

Q:どんな人が読むべきか?

A:株式投資などにおいて、早めの戦略を練りたい人。

無形投資のトレンドは、現在は高リスク商品のハイグロース株に一番役立つが、結果的には、他の分野、例えば、農業も製造業もIT化によって高い生産性を生み出そうとする企業が生まれるはずだ。そういうふうになると、必然的に投資資金の動きが変わり、値動きの大きな銘柄になる。

むしろ最終的には、有形資産の多くの役割を無形資産が代替するようになるのが、トレンド的には見えている。そんな中、早めにそれらに投資をしたい人ほど、読んでおくべきだと思う。

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